魚の履歴書  ボラ

僕は冬になると大きくなる。

この前の夏、僕はまだ子供だった。お母さんとお父さんとおじいちゃんとおばあちゃんとお姉ちゃんたちとみんなで泳いでいた。

あれは決して乱れることがない透き通った夏の午後だった。

僕の不完全な視力でも海の端っこが見えるのではないかと思ったほど綺麗な海だった。

おばあちゃんはいなくなっていた。

弟や妹が増えたのだからおばあちゃんのことは忘れなさいとお父さんは言った。

個の価値を考慮せず、数の差し引きだけで全体を見ようとするのは生まれた頃からの習わしだった。

ふと僕はおばあちゃんに教えてもらった硬い藻を剥ぎ取る方法を思いだした。

子供の頃は汚れた水の中が好きだった。

大好きな藻や苔がたくさん生えていたからだ。

その頃おばあちゃんにこっそりと教えてもらった。

その方法で僕は誰よりも藻を食べ、体を大きくすることができた。

そうすることで家族を守れると思ったから僕はどんどん食べた。

大きくなった僕は一人で河口へと降り海の方へと泳いでみたことがあった。

まだ僕の周りの友人は誰も行ったことがなかった。

海は広くて気持ちがいいだろうと自慢してやるつもりだったのだ。

河口を抜けると塩分が体にじんわり浸透してきた。一片の迷いもなくそこは海だった。

水底が深くなり海の色はダークブルーから灰色へと変化していた。

藻は簡単には食べられない不自然な場所に隠されているようだった。

僕は早く泳ぎたいと思った。

広くて誰もいない道路で無性に速度を上げたくなるドライバーのように。

僕はふと体についた寄生虫が気になった。

実際的にも何もない方が軽くなれるような気がしたからだ。

逆らっていた奔流を背後にとり水面に向けてジャンプした。

洗練されているとはいえなかったがこれまでの行ったジャンプの中では一番高かった。

白い太陽が近くなった。眩しかった。

一番高く上がったところで、首の少し上で風が斬られる音が聞こえた。

いささか歪んだような、それでいて不自然ではない何度か聞けば慣れてしまうような音だった。

海に着地時には、頭上に頭が白くて茶色い羽を持った鳥が青い空へと上昇していた。

僕は注意深く耳をすませた。

風の奥にピィーピィーという鳴き声が聞こえた。

おばあちゃんが言っていたミサゴだろうか。

進むことも後戻りすることもできない立ちすくむ影のように僕は水中を一人漂っていた。

目を覚ますと僕は近くにいる友達が見えにくくなっていた。

目を凝らせば凝らすほど残像として遠くに霞んでいた。

どこか実体のないものとして、現実性の中に含まれているような認識はあった。

ただそこには致命的なほど先鋭さが失われていた。

おばあちゃんが言っていたことを思い出した。

「今失うのか後から失うのかを今知る必要はないの。ただ月の動きに身を任せておけばいいのよ」

僕はしっかりと目を閉じた。

 

RIO