唐津の捨て瀬は荒れていた。
まさか、これほどまで荒れているとは夢にも思っていなかった。
僕の頭の中は、器材交換の映像が面白くなるかどうか、それだけが唯一の関心ごとであったので、北東の風のことなど、はなから飛んでいたのだ。
この風では、呼子灯台も潜れない。
潜れたとしても、呼子灯台では、器材交換やレスキュー評価をするのは、いささかやりずらい。
僕たちは、家康ポイントに移動するしかなかった。
家康ポイントには、よく肥えた釣り人がいた。
手前のよく肥えたまゆこんぐの後ろにいる子だ。
虫エサで、アカササノハベラとダイナンギンポを、次々と釣り上げては、水の入っていないバケツに放り込んでいた。
自慢の釣果をお母さんに見せて自慢していた。
エントリー口は、潮が引いて、岩がむき出していた。
レスキューの引き上げは危険だった。
普通にやれば、牡蠣でドライが切り傷だらけになる。
デモンストレーション的に行うわけだから、無理に引き上げる必要はない。
手順と手際を覚えているかどうかが、肝要なところなのだから、牡蠣地帯だけは歩いてもらうことにした。
レスキュー評価ごとき、少なくとも1時間あれば終わるだろうと見ていた。
しかしそれは甘い設定であった。
僕はふたりを買い被りすぎてしまっていたことを、後々知ることになる。
U字パターン捜索。透明度は悪くない。
20m離れたところからスタートした。
事故者が目の前にいることに気が付かず、まゆこんぐは事故者の真横を通り過ぎた。
5mほど泳いで、後戻りして、つばさを見つけた。
引き上げ作業。
ひさしぶり感がすごかった。
手順は自己流を貫く。
本人は合格だと思っていたみたいだけれども、当然、やりなおし。
つばさの捜索は問題なかった。
しかし、つばさは自分のBCを脱ぐのを忘れて、岸までひっぱってきた。
もちろんやり直し。
講習生レベルであれば、これで合格でもいいと思えるところまできたものの、プロがみせるレベルではない。
そんな講習めいたレスキューテストを繰り返しているうちに、僕の体力はみるみるなくなっていった。
ひとつ救いだったのは、肥えた釣り人がアカササノハベラとダイナンギンポを釣り上げてはせっせとバケツに放り込んでいたことだった。
一度、陸にあがって、打ち合わせを行い、再度やりなおして、ぎりぎり合格の運びとなった。
トータル2時間45分かかったので、お昼ごはんは食べず、器材交換の準備をして再度海に潜った。
冬至は近い。
5時には暗くなる。
タンクのエアーもこころもとない。
成功するかどうかは、一回目にかかっている。
結果からいうと、42分をかけ、一回で合格した。
一動作に対して、何度も呼吸を整えるのだから、時間がかかるのはあたりまえだ。
映像も撮ったのだが、長くて、見所がなくて、あまりおもしろくない。
一応、動画は公開しているので、興味のある方は一度ご覧になるといい。
こういったスリリングなダイビングにはふたりの阿吽の息が絶対不可欠である。
不安な心境の解消、ハプニングの際の動作の確認、合図など。
そういった、ふたりの準備がどこまで整えられていたのか、僕にはわからない。
ただ、実際に現場で見ていると、本来の人物像が浮き彫りにされて、なるほど勉強になる。
ふたりの里程標も浮き彫りにされた。
はげまなければいかんな。
RIO