夜が明ける前の午前3時。
レスキューの宿題を済まそうと、昨日セットしておいた目覚ましが鳴った。
残り3章。1章1時間で書き上げれば、6時には終えることができる。
そうふんでいたわたしは、子供の頃から使っている勉強机にライトを灯し、写し始めた。
1時間が経過した頃、1章も終わっていないことに気づいた。
「これはやばい」
眠いことでより集中力がなくなったぼんやりした脳みそでも、それが間に合わないことは、はっきりわかった。
わたしはいつもギリギリにならないとやる気が起きない。
「そこは昔から変わっていないよ」と、落書きされた勉強机が教えてくれていた。
うん。
こうなったらもう最後の手段しかない。
そう決めたまゆは、
すでに完成された姉の宿題を写すため、LINEの電話をかけた。
「もしもし。おはよう。レスキューの宿題終わらなかったから、見せて欲しいんだけど」
「まじ!?終わんなかったの?だから早くやっとけっていったやん」と姉は不機嫌そうに答えた
「ごめん。なんか朝ごはん買って行くから。何がいい?」
「ゆでタマゴとバナナ」
ダレノガレ明美風にかっこよく姉が言い放った言葉が妙にツボにはまり、にやけてしまったが、そんなツッコミを入れると、宿題を見せてもらえないかもしれない。
「ゆでタマゴとバナナ」はいつかのネタにするため、どこかの引き出しにしまい、表面が剥がれかかったベージュの通勤バッグにテキストを放り込み家を出た。
姉は、モデルさながらの服に身を包み、自宅のソファーの上で足を組んで待っていた。
買ってきた朝ごはんを渡すと、タマゴの殻をむきながら、
「ほら写していいよ。」
上から目線の姉は、ちょっとキレ気味のダレノガレにしか見えなかった。
しかし、食べているものがちょっとダサい。
いや、ダサくないのかもしれないが、なんかダサい。
姉はいつも、作られていないごくごく自然なギャップを使った笑いを教えてくれる。
こんな笑いを作れるのは、天性のものだろう。
これは、どこどこ星からやってくるアイドルが醸造する類の空気感とは似ても似つかないものであり、まゆには到底真似できないものだろうということはわかっていた。
そんな姉の醸しだす空気感は、世間一般でいう「天然」という言葉で正解なのかもしれない。
「天然」と呼ばれる人が全員そうなのかはわからないが、モノを買い与えるか、褒め言葉を使えば、怒りは冷めやすく、根に持たない。
単純明快な性格は、機嫌をこちらの意図で左右しやすい。
これが本当の意味で天然であるということなのだろうか。
いつか普通の天然の人に会ってみたい。
そんなことを思いながら、書いてある文字を白紙のプリントにせっせと写した。
結構なボリュームの文字を書き写したが、まだ終わる気配がない。
しかも、内容は全く入ってこない。
これでテストに落ちたら、どうしよう。
まあ、これまでのわたしのピンチは、笑顔と愛嬌だけでなんとかやってこれたからなんとかなるか。
特に、サンライズの人たちは、笑顔を愛嬌に弱いので、そう安逸に考えても問題はないよね。
しかし、出発のリミットは近づき、結局最後まで書き写すことはできなかった。
とうわけで、ズル賢い妹は神妙な顔で講習を受けていました。
でも、しっかりテストには合格するという、なかなかの器用さも見せつけていました。
ちなみに、宿題をしっかりやってきた直太朗は落ちました。
鼻の穴を見せるから許してね。
マキバオーじゃないよ。
前半、レスキューの学科で、後半からEFRにし、だらけをなくそうという試みでやってみました。
お昼を食べた後に、動く講習のEFRは集中力が続きやすくて正解のようです。
生き生きとしたセナコングが何よりの証明です。
次回からこのパターンでいこうと思います。
お昼を食べた後に学科をするのは、ふわふわとした時間が流れていき、冥界のふちを彷徨うように、最後は意識不明になってしまいますので。
さて、意識不明役のセナコングは、
ファッション雑誌から出てきたみたいでした。
直太朗は、火サスの死体を額面通りにこなしていました。
あとは、転がしたり。
電話をかけたり。
二重アゴを撮られないようにガードしたり。
包帯巻いたり。
酸素組み立てたり。
喉に詰まったものを出したり。
EFRとレスキューの再テストは、直太朗だけ居残りでやりきり、無事合格。
終了時間は、19時25分。
その後、
たまたま昨日、誕生日だったセナコングのバースデーパーティーをささやかながら執り行いました。
社会人になってまともに祝ったのは久しぶりらしく、素直に喜ぶ姿からはダレノガレのダークな影は感じられませんでした。
素敵な一年をお過ごしください。
いい記念講習になりました。
そして、直太朗へ。
ピザありがとうございました。
僕は、大将さんにもらったワインを久々がぶ飲みして(全部おろり)、朝から二日酔いで食欲もなく、このまま痩せていきそうです。
RIO