僕は柴犬に会いにいく。
坂道の途中、香椎浜が見える。
その手前には馬のひずめみたいな香椎干潟が広がっている。
その干潟は宿命的な月の引力によって海水のシーツをひっぺがされ、淡い喪失感をあらわにしているように見える。
まるで、どしゃぶりの雨で使い物にならなくなった野球場のグラウンドみたいだ。
もしこの使い道の少ない小さな干潟が君は好きなのかいと尋ねられたら、意外かもしれないが僕は迷わず好きだと答えるだろう。
香椎干潟の隅の方に立っているいかにもご利益がなさそうな御島神社が僕の思い出の場所だからだ。
取り立てていい思い出があるわけではないけれど、取り立てて悪い思い出があるわけではない。
坂道の頂上についたそのとき柴犬は近づいてくるエンジンの音を嗅ぎつけていた。
肉球に力をいれて前足を強く伸ばす。丸くなった背中を猫のようにしならせる。雨水を払うように顔を振う。
バックしてくるエンジンの音は彼のうつろな目を覚まし、鼻の嗅覚を敏感にさせる。
心臓が渇いた音を立てる。熱い血流があっという間に全身を駆け巡る。やがて意識が組成を凌駕する。
クッキーはいつも玄関の土間の上で僕の帰りをまっていた。
クッキーは決して僕に迷惑をかけたりしない。
だから飛びついてくることもない。
クッキーは涼しい顔をして、毛が飛び散らない程度にふわふわとした白いしっぽを上下させるだけだ。
僕が靴を脱いで家の中にはいり、リードを持って戻ってくるまで絶対に吠えたりはしない。
ただ、こちらをじっと見ているだけ。
僕はクッキーを連れて香椎浜の干潟へと向かう。
クッキーは嬉しそうに僕の前を歩く。
クッキーは一番最初にみつけた街路樹の脇にしゃがみこみ、長い時間をかけておしっこをする。
それは由緒正しき参拝の儀式のようにもみえる。
干潟の向こうから西日がさしてくる。
風は止み、空気は淀み、潮が満ちている。
鳥居の足は水遊びする子供のようにくるぶしくらいまで海水に沈んでいる。
干潟には降りられない。
どこにも辿り着けないふたりは神社の鳥居を見つめる。
井戸の底を覗きこむように海の底を見つめる。
そこに見えるのは今も昔も変わらない使い道の少ない干潟だった。
僕は小学校4年生のとき名島に引っ越すことになった。
引っ越した先はどこにでもあるくすんだ色をした、ぱっとしない五階建ての新築マンションだった。
このろくでもないマンションのどこを気にいって、気の遠くなるようなローンを組むことになったのか。
宇宙規模の謎だ。
でもはっきりわかっていることがある。
それは僕の両親が致命的にセンスのない人たちなのだ。
でなければ、あんなうらぶれた場所に立つ、うらぶれた色をしたマンションに大金を使うはずがない。
僕は香椎浜団地の3DKで十分だったのに。
クッキーは椎田のおばあちゃんの家に預けられることになった。
新築のマンションで犬を飼うことを両親が許可しなかったからだ。
それ以来、僕とクッキーは香椎浜の干潟でみた夕日よりも、周防灘で見た夕日の方が多くなった。
クッキーはそっちの生活の方がいくぶん幸せそうに見えた。
そのことが僕にとっての救いだった。
そうそう。
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さて、今日のメンバーはこちら。
腕が太くなりすぎたトミー。
スキンスーツ解禁のちゃんまり。
ロボコップのセビロくん。
暑がりのなおたろう。
ガイドテストに緊張しているこな。
そして総合監督はRIO44歳でございます。
僕はセビロくんと講習しました。
彼は、地上が暑いとか、海中が寒いとか、カフェインたっぷりのおしっこをしたいとか、はやくドライのファスナーを開けてくれとか、寝不足で眠たいとか、そんな愚にもつかない不満を一切漏らしません。
静かに海を楽しむまでです。
彼は予習をしていました。
イメージトレーニングです。
ブログから得られる有益な情報を取り入れていました。
僕は中性浮力に関係ないことを取り入れることにしました。
これは崖上り。
フィン持って走ってみました。
以前からやりたかったそうです。
輪くぐりもフィンがないと走り高跳びみたいにくぐらないといけません。
BCとウエイト脱着。
逆立ち。
他にもいろいろ教えたような気がしますが、割愛します。
2本目はフォト講習。
セビロくんは、簡単そうに見えてとても難しかったですと言っていました。
ブログに出てくる写真は偉大なんですね。
かしこまった顔で話していました。
まずはワイドを撮ってもらいました。
ブイを斜めに撮っているのもきちんと構図を意識している証ですね。
続いてマクロ。
これなんか綺麗に撮れていますね。
これもわりかしいいですね。
基本に忠実なサビハゼって感じです。
そして、彼が選んだベスト3はこちら。
タイトル
「コンバットさんごめんなさい」
コンバットには一回も会ったことがないけれど、コンバットの大好きなサラサウミウシを綺麗に撮れなくてごめんなさいという意味でしょうね。
サラサウミウシなんてこれくらい撮れていたら十分だと思うんですけどね。
これ以上可愛く撮る意味はあるんですかね。
「MK5」
マジで恋する5秒前のMKだそうです。
そう思ったのは、このとんがった唇のせいなのかな?
飛び出した瞳かな?
マッチョなオスが誘っているのかな?
「伊集院先生」
君にとってタコは伊集院先生なんだね。
知らなかったよ。
覚えていたら、今度からそう呼ぶようにするよ。
というわけで、こなは次回のガイドテストに向けて準備バンタンです。
緊張さえしなければ、いい線いくのかな。どうなのかな。
おっと、またもやドライの首を引きちぎったこなつ。
引きちぎっても受かればいいんだよ。
がんばってね。
RIO