6/6 志賀島でナビゲーションしてみた。

今泉の朝。

梅雨前のジメッとした湿度が体にまとわりつく。

少しでも動くと汗をかきそうだが、どうせウエットで潜るのだから心配ない。

天神 今泉

ヘッドライトがくすんだハイエースが上人橋通りに停車した。

人通りが少ないとは言えないこの通りでは、通行の妨げになる。

めぐと急いで荷物を積み込む。

出勤するサラリーマンを横目に、国体通りを通り抜け、志賀島へと向かう。

 

特に渋滞する様子もなく、いつも通り9時30分に開店前のシャワーの玄関前に着いた。

ちゃんぽん シャワー

 

直太朗のファンダイブとめぐのTTという、少人数だったので時間の焦りはまるでない。

日向ボッコをするように今日のダイビングについて打ち合わせをした。

ブリーフィング

 

向かう先は、志賀島の東側、ダイビングの聖地でもある「白瀬」だ。

年代もののハイエースは、3人のダイバーを乗せて走り出した。

ちゃんぽん シャワー

 

現地施設のシャワーから、車で約10分ほどのところにある、玄界灘に面した白瀬は、高さ10mほどある突き出た岩の上が突き出ている。

この時期この場所に巣を作り、子育てするミサゴが有名である。

今日も、筒のような望遠レンズを抱えた中年カメラマンたちが片時も目を離すことなくファインダーを注視していた。

そろそろ巣立ちの瞬間とあって、いつになく数が多い気がする。

志賀島

 

天気は雲ひとつない快晴だったが、ダイバーの影は見あたらない。

どうやら貸切のようだ。

志賀島

 

 

僕は、ウエットスーツインナーにフードベストという完全防備だったが、直太朗はニット帽にウエットスーツという夏用ウエット装備でも寒くないらしい。

水温は21度を超えたとはいえ、長めに潜ると冷える水温だ。人の体温感覚には謎が多い。

志賀島ダイビング

 

満潮の浅瀬を歩いていくと、程なくして、ひんやりとした水が足首から入ってきた。

志賀島

 

首まで浸かると、体の末端が涼感に包まれた。

体温が上がりきっているせいか、心臓の律動が穏やかになるような気がした。

僕は海水で口の中をゆすぐと、スノーケルのマウスピースを咥え、沖まで移動する。

白瀬

 

波がない水面は移動に時間を取られることはなかった。

前回のレスキュー講習とは大違いだ。

僕は、直太朗と向かい合い、親指を下に突き立てた言外の合図で、水深5mほどの水底に潜降した。

潜降 

 

今日で99本を迎える直太朗のリクエストは、P3の地形を把握すること。

僕は、直太朗にP3までのガイドをお願いした。

ナビ

 

アナログ表示のコンパスとこれまでに覚えた地形を頼りに迷うことなく10分弱で到着すると、直太朗はマスク越しでもわかる満足な笑みを湛えていた。

ブイ

 

地形を覚えつつ、水中スマホケースに入れたI-PHONEで魚を撮る。

今の時代は、海の中でもスマホを携帯するようになったようだ。

カメラ

 

季節の変わり目でもある6月の志賀島は、春と夏の境目を薄雲で区切るかのように濁っていた。

しかし、マクロ撮影であれば、そんな濁りの様子が映し出されることはない。

綺麗なサラサウミウシが、誰かに見つかるのを恐れるように不安定な海藻の上から海底を眺めていた。

サラサウミウシ

 

直太朗はP3からP2へと移動した。

P2からめぐへとガイドが変わり若干、左にずれP8へ着いた。

そこから、修正して浅瀬に戻ってくると、ちょうど60分間のダイビングだった。

寒さを感じることはない、快適なダイビングだ。

浅瀬

 

潮位が満潮に差し掛かった頃、2本目に向かう。

めぐはTT講習のため、直太朗にマスク脱着をお願いした。

久しぶりの脱着にも関わらず直太朗は、快く引き受けてくれた。

マスク外す

 

めぐが構えたレンズと直太朗との距離が遠すぎたため、2回目をお願いした。

スキルアップに熱心な直太朗はマスク脱着を歓迎しているように見えた。

マスク外す

 

一時停止をする余裕は、インストラクターのデモンストレーションを彷彿とさせたのだった。

レギュレーターリカバリー

 

撮影が終わると、北東方向にP4に向かう。

数週間前からP4の岩の丸い海藻の陰に潜んでいるオトシゴの産卵がそこまできていた。

タツノオトシゴ

おそらく、次の大潮である日曜日、月曜日、火曜日あたりに産むことはまず間違いない。

夜の潮を狙えば、50匹ほどのオトシゴのミニチュア達がお腹の下から飛び出てくる様子を見ることができるだろう。

育児に必死なオトシゴは、どんなにライトを向けられても、逃げようとはせず、ただ呆然と立ち去るのを看過している。

襲われる不安よりも、子孫を残す決意の方が優っているのだろう。もしくは、逃げられないと悟っているのかもしれない。

育児を任されたオスは、決して陣地から引くことのない野武士のように、したたかな抵抗を見せることなく(月の)援軍が来るのを待っていた。

産卵

 

1本目でP3を見てきた直太朗だったが、2本目ではP3を見過ごし、P1 方面に帰ってきた。

P1からなら見つけられるP3も、P4から来ると別の岩に見えるらしい。

迷っている直太朗をP1の砂地に連れてくると、P2だと勘違いしていた。

「まさか、こんなとこまで帰ってきているなんて思わなかった」

迷子

人間の感覚器官で、騙されやすいの目と耳だ。

陽炎のように見える岩陰も近づいていくと、明晰夢であるかのように目の前から消え去っていく。

ナビの王道であるコンパスに頼ると一度ずれた方角は元には戻せない。

水深と距離で大まかな場所を特定し、第三の目を開くように五感をフルに駆使しなければ、有形無形な岩壁に騙されてしまうのだ。

そんな五感を磨くには、こけつまびろつ海へと足繁く通い、自然との彼我の差を縮めるしかない。

そうすれば、いつの日か大母の静かなる嬌声が聞こえてくるようになるのだ。

 

RIO