僕は今、おでこにニキビができている。
でっかくて、膿がぎっしりつまった赤いやつだ。
目の下の皮膚は重力に負け、顔全体が気だるく垂れ下がっている。
上唇には、固まった接着剤みたいにヘルペスが有機的に付着し、吐く息はくさい。
内臓の一部の賞味期限がきれたみたいだ。
思い当たる理由はひとつしかない。
壮年を迎えた44歳の僕にとって、日常の進んでいくスピードが早すぎたのだ。
あるいは、僕が遅すぎたのかもしれない。
刺激を失った冬の太陽が、森の隅に姿を消した。
あたりは、ほのかに黄金色に包まれた。
僕は晴れて、周回遅れとなった。
僕は遅れを取り戻そうと、周回遅れではない人たちを見つけたらやっきになって抜こうとする。
ときおり、僕は駆け足になる。
街に溢れる暗い影は、朗々と声をあげる。
僕の背中に生ぬるい息を吹きかける。
僕は彼らから遠ざかるために、大きく腕を振って歩く。
ときおり、駆け足になった。
僕は今日アシックスを履いていた。
足が疲れなかった。
僕の日常は、日常と非日常の壁を取り払い、その行き来をできる限りスムーズにすることだ。
オニカサゴを撮ったあとに、パルコのカフェで読書をするような、そんな感じ。
非日常を演出するような無駄なことはしない。
非日常は誰かに演出されなくても、定点としてそこにあるものなのだ。
そういったものをわざわざ取り上げて、「どうですか。これが非日常というものなのですよ」、と言われても、こちらとしてはまあそうでしょうなあ、小首をかしげるほかない。
だから、僕はそういう底の浅いことを言う人がいたら、駆け足で逃げる。
DASH。
アシックスを履いていると、より早く逃げられる。
だから、僕は心底アシックスが好きなのだ。
RIO