セブンイレブンに着く。
ドアを開ける。
暑い。
3列目のシートに乗っていても足が灼ける。
となりにはじめて会う女性が乗っている。
名前はなんといったかな。
どこかしら華原朋美に似ていた。
でも華原朋美という四種類の漢字が名前の中に一つも含まれていなかったような気がする。
シャワーに着いた。
海がそばにあるが気温には影響はない。
セブンと同じだけ暑い。
めぐがその女性に施設の説明をしている。
暑いことはめぐの意識の奥にまでは届いていないみたいだ。
テキパキと爽やかである。
ふるのさんはアウトローとハイエンドレギュレーターレジェンドを喜んでいた。
けれどもここで組み立てるのはいささか不愉快にすぎる。
施設に入る。
効き始めたエアコンの冷気はおかしくなった僕たちの思考を正常に形成することに成功する。
人間はもうエアコンなしでは生きられないことを痛感した。
海に向かう。
ふるのさんは誰とでも兄弟になれる素質がある。
最近、北東の風が吹いているけれど、海は潜れるのかしらん。
白瀬に着く。
誰もいない。
車もバイクもまばらだ。
僕たちは中空に上がり始めた太陽の光を真っ向から受ける。
それはあまりに正面突破的であり高踏的である。
じりじりと僕たちの周りを包囲する。
ふせぎようがない。
写真を撮りながらふと夏の海のいいところを思い出した。
それは3つあった。
どんな人でも優しく受け入れてくれるところ。
海の内部を大盤振る舞いで見せてくれるところ。
真面目腐ったことは抜きにして「まあ、いっか」と僕たちの心を一段おおらかにさせてくれるところだ。
荷下ろしは続いていた。
暑さのために動く気力がなくなる。
タイ人になった気分で僕はそれを見ていた。
テントは立ててあるものの、その物理的な大きさから全員を夏の日差しから守ることはできない。
身にかかる苦難をほいほいとあきらめることができる人もいる。
それは女性に多い気がする。
一般的には男は不安には強いがストレスに弱い。
反対に女性はストレスに強いが不安には弱い。
過酷な環境でも粘り強く動けるかどうかについては女性に軍配があがる。
僕はあまりの暑さにこのあたりから世界がモノクロに見えていた。
僕の目はこのあとセピア色に変わる。
そして限界を迎えたころにはブラックに変わるんだと思う。
海の中はそれなりに面白かった。
水温の上昇で四つ岩方面は海藻が死んでウミウシは激減していたけれど、キュウセンたちは高水温の水中を楽しそうに泳いでいた。
東方向のP9に行く途中、シラライロウミウシがいた。
けっこうめずらしいらしい。僕はずっとウスイロウミウシだと思っていた。
アドバンス講習のふるのさんははじめてみるフジナミウミウシに感激していた。
P8のブイのところにいたけれど、ちょっと目を離すとスタスタ歩いて岩陰に隠れるのでもう見つけられないかもしれない。
P8の岩の隙間にはミナミハコフグの幼魚がいた。
白瀬で見れるのはほとんどが普通のハコフグだが、これは正真正銘のミナミハコフグだ。
水面が29度で水中も27度くらいあるので泳ぐと蒸し暑い。
海の中で蒸し暑いというのはなんとも不思議だ。
こんなときはフードがないくらいでちょうどいいのだとおもう。
しかし一旦フードに馴れ親しんでしまうと、頭部が剥き出しである事実に恐怖を覚える。
実際はフードなんてなくても貝だらけの輪っかをくぐれるんだけどね。
最高級レジェンドとアウトローの組み合わせでエアーが長持ちになったふるのさん。
コンパスもうまくなったみたいだ。
やっぱりダイビングは器材がよくないと上達しないもんなんだ。
10匹くらいの群れでアンドンクラゲがいた。
刺されないように避けて浮上する。
志賀島海水浴場と比べて白瀬は水深が深い。
だからアンドンクラゲの出てくる時期は海水浴場よりも遅くなる。
しかしこのアンドンクラゲの量は八月中旬とさして変わらない。
今年はフィーバーすることは間違いなさそうだ。
楽しかった時間はもうおしまい。
これから地獄の荷上げ時間がはじまる。
日が志賀島の山に隠れたとはいえ蒸し暑さは変わらない。
今回はじめてサンライズに来た女性は80分越えのロングダイブが肉体的にあっていなかったのだろう。
酔って動けない。
酔いの先輩ふじこがにこやかに介抱する。
ふたりが作り出す述懐的なその様相はエーリティズムといった思想からはかけ離れていた。
それは自明のものとして非カラフルに存在した。
西日の影がそうさせていたのだ。
僕たちは黙ってめぐを待つ。
西日を受けると前田は目が見えなくなる。
ハイエースはまだこない。
絞りを変えても見えてこない。
前田レンズF5.6
めぐがくる。
車はまばらだから急ぐ必要はない。
積み上がってきた。
いえーい。
白瀬はまだ死んでいない。
少なくとも生きているところに行きたければ東に泳げばいい。
もし全部死ぬとしたらそれは八月終わりごろのことだろうと推察する。
RIO