下関へ行ってみた。。

長身のスラリとした足に、真っ赤なミニスカートを滑らせる。足が長いコナはミニスカートがよく似合う。最近、食事の大半をグルテンフリーにして、体重が6キロ落ちたおかげで、同僚からの評判も上々だ。

買ったばかりのショーツに彼は気づいてくれるのだろうか。そんな心配がかすかによぎる。痩せたことにも気がつかないのだから、気がつくわけがないか。

そんなコナの心を見透かすように、galaxyから、ラインの着信バイブが鳴った。

「もうすぐ着きます」

そっけないラインの内容は、ヨコボウならではだ。ヨコボウが気の利いた文章を送ってきたのは、喧嘩をした夜の一度きりだけ。それも気の利いたといえる内容ではないが、ヨコボウにしては頑張ったほうだ。

そっけない言葉に、コナはいつものように、そっけないクマが笑っているスタンプを返して、上着を羽織った。

今日は、レンタカーでいくドライブデートは2回目。

前回は、雪がちらつく日に、よくわからない海岸に連れていかれて、不機嫌な顔をしたら、なんで不機嫌なの?と不思議そうに聞かれた。ヨコボウはそんな細やかな心の変化に気づくようなタイプではない。

ヨコボウが興味のあることは、カメラ。

GOPRO、ミラーレス、ドローン、コンデジとかなりのオタクだ。そんなカメラへの愛情には勝てないと悟って以来、不満に思うことは全てインスタで発散することにしたが、それは今のところ正解のようだ。

「いつ着くの?待ってるよ」

「もう着いてる」

すでに身支度が整っていたコナは、急いで玄関を出ると、ヨコボウが借りてきた車が道路の脇に止まっていた。

銀色のいかにも作業で使っているような薄汚れたワゴンだった。

デートなのにこの車はないんじゃない?と一瞬思ったが、口にはしない。

「意外に早かったね」

「そう普通だけど」

「今日は来てくれてありがとうね」

「うん」

「今日は晴れてよかったね」

「うん」

「今日ダイビング行けなかったけど、大丈夫だった?」

「うん」

「わたし、下関の海響館行ったことないから、めっちゃ楽しみ!ヨコボウは何見たいの?」

「フグとペンギン」

「あそこは有名だもんね!わたしもめっちゃ見たい」

「ヨコボウは、お昼何食べたいの?」

「ヒラメの寿司かな」

どこか上の空のような会話が30分も続いた頃、車は九州自動車道の古賀インターに入っていた。

ほどなくして、会話はいつのまにか途切れ、いつものように無言の車内になる。

コナは無言になると決まって携帯をいじる。と、ここまではいつものお決まりパターンだ。

しかし、ここは久し振りに履いた赤のミニスカートを見せる時だ。

コナはスカートをたくし上げ、ピンクのショーツが見えるか見えないかのところで、バドミントンで鍛えたお世辞にも細いとはいえない太ももを露わにした。

「ねえ、この前足怪我しちゃって、痛いんだ」

よこぼうは、太ももに目をチラッとやるも、すぐに視線を戻した。

「どこ怪我したの?」

「太ももの上の方だよ」

さらにスカートをたくし上げ、丸出しになった太ももに指を指す。

「ここだよここ、ちゃんと見てよ」

「今は、運転してて見れないよ」

「ちょっとなら大丈夫だよ。ねえってば」

 

付き合って半年経つのによこぼうからの甘い言葉を聞いたことはない。それどころか、厳しい言葉も聞いたことがない。

無の境地、いや、わたしへの興味を感じていることがないのかもしれない。

もしあるとすれば、一緒にダイビングをしている時だけだ。

それも、わたしが、ヨコボウの好きな生き物を見つけた時にはわかりやすく興味があるように見えるが、それはわたしにではなくて、生物にだともいえる。

20台独身女子が悩みそうなことをわたしが悩むとは思ってもみなかったな。

コナは冷静に自分のことをメタ分析できていることに驚いていた。

 

昼過ぎに着いた下関の海響館は土曜日ともあって、家族連れで賑わっていた。

フグを基調とした展示に、下関が推しているペンギンが売りの水族館だ。

フグはわかるが、なぜ、ペンギンなのか。そんな素朴な疑問をよそに、コナは大好きなピラルクをGalaxyに収めていく。

ピラルクといえば、顔がスズキに似ているちょっとグロテスクな魚だが、昔からちょっと変わった生き物が好きだった。

他には、アカヤガラや深海魚といった見た目が普通ではない魚たち。

コナがダイビングを始めたきっかけは、初心者コースで潜った時に、唐津で見たアメフラシが異常に可愛かったこと。アメフラシのフワフワした触り心地と小さい瞳の虜となった。

夢中で潜り始めて1年が経つころ、ショップでガイドをしていたヨコボウに出会い、ほぼ一目惚れで付き合い始めた。

誰が見てもヨコボウはイケメンだ。写真映りは悪いものの、すました顔は織田裕二にそっくりで、本人は口が裂けても言わないが、今でもうっとりすることがある。

人に関しては、特に変わった見た目が好きというわけではないと思うが、生き物に関しては人と違う感性があるのは間違いない。

 

そして、水族館では、普段無口のヨコボウも、雄弁に変わる。

ヨコボウの魚の知識はおそらく水族館の職員レベルで詳しいし、コナはそんな魚の知識を聞くのは嫌いではない。

コナは積極的に魚の質問をぶつけると、ヨコボウもそれに応えようとどんどん口が達者になっていく。

そんな雄弁なヨコボウに敬服したコナは、以前よりも小さくなったcカップの胸を押し当てる。

 

「ねえ今日何食べるの?おなかすいたんだけど」

ヨコボウがコナの胸元に視線を落としたのを確認して、さらにコナは足を絡ませさらに体を密着させ、首筋にキスをした。

ヨコボウは慌ててコナを右手で突き放す。

「ていうか今、人が見てたよ。唐戸市場で寿司食おうよ。さっき言ったじゃん」

コナはそんな言葉を無視するように、体を寄せて、ヨコボウの股間をまさぐりながら、もう一度胸を押し当てる。

若干硬くなってるなとコナは冷静に分析したが、ヨコボウは逃げるように立ち上がり、ちょっと怒ったように、

「もう行こうよ。遅くなると、寿司屋閉まるかもよ」

「まだ2時なんだから、寿司屋閉まんないよ。もう少しここで見ようよ」

コナはミノカサゴの水槽のヘリで足を組み替え、ミニスカートから見える御御足を見せつけてみたものの、ヨコボウはスタスタと歩いていってしまった。

やれやれ。この調子じゃ今日もないのかもな。

半年経っても、ヨコボウは手もつないできてくれないので、わたしの相棒はもっぱらドンキで買ったピンク色のブツだ。

まさかわたしがピンクのブツで毎晩ヨコボウの写真で昇天しているとは夢にも思っていないだろう。

そんなことを知ったら、彼は軽蔑するかもしれないが、わたしの膨れ上がった性欲を抑えることは不可能だ。

そんな清純派を気取った彼も、実は毎晩わたしで抜いてくれているのかもしれないし。

もし、そうなら、お互い心の中でセックスしているようなものだな。

もし、今日なかったことの言い訳にできそうな、荒唐無稽の理論を頭の中で組み立てながら、唐戸市場でテイクアウトした寿司を頬張っていた。

「美味しいね。ヨコボウ」

「そうだね」

「なんでヒラメ好きなの?」

「ヒラメは見るのも、撮るのも好きだよ」

唐戸市場の側にある堤防は、魚臭い春の風がプンプンしていて、ヒラメの寿司に微妙なスパイスを加えていた。

しかし、そんな寿司の味など、気にも止めずヨコボウは最後の目的地である角島に思いを馳せていることに、コナは察していた。

角島は下関から1時間くらいの場所にある日本海の小さな島だ。

夏になると、ジャランなどに特集を組まれる角島は、大きな橋がかかっており、景観が立派なことから、夏になると大量の観光客が押し寄せる場所でもある。

ヨコボウはそこでMAVICと呼ばれる1000mはゆうに上がるドローンを飛ばす気なのだ。

夏だと人が多くて飛ばせないドローンも春の時期なら問題なく飛ばせることも彼の中では、おそらくリサーチ済みなのだろう。

心なしか、運転も軽快にキビキビしているように見える。

角島大橋のたもとにある小さな堤防に着いた頃には、日が落ちかかっていた。

よこぼうは、手慣れた様子でドローンの羽を伸ばし、Ipadをラジコンのプロポのように装着し、颯爽と空に放つ。

ブイーーン

一気に空に舞い上がり、夕暮れの空の中では、ドローンは見えなくなった。

ドローンに夢中のよこぼうにコナは小さな声独り言のように問いかける。

「ねえ、ドローン楽しい?」

「もしかしたら、これが目的で今日きたんじゃないの?」

「わたしもドローン買おうかな」

「そしたら、よこぼうのドローンにぶつけて、墜落させようかな」

風が強くて、まったく聞こえていない様子なので、もう少し声を大きくする。

「わたし、ヨコボウと手もつないでないし、キスもしたことないんだけど、なんで興味ないの?」

「このままだったら、浮気しちゃうかもよ」

そんな独り言が聞こえたのだろうか、ヨコボウがこっちに向かって走ってきた。

「聞こえたの?今の嘘だよ」

「えっ?なんのこと?」

「ドローンがまた落ちたんだ。信じられない。今回海だから、もう無理だ」

海面ギリギリを撮ろうとして、そのまま海面に突っ込んだらしい。

ヨコボウが持っていたI Padには真っ黒の映像だけが映し出されていた。

遠くの海を見つめ、呆然としているヨコボウにコナはそっと体を寄せた。

こんなときなんて言ったらいいんだろう。

今日一日、わたしはないがしろにされた気分だからお互い様だよ。

これではかわいそうだ。

ドローンは今度潜った時に、一緒に探そうそうよ。

これもなんか違う

ドローンは卒業の時期なんだよ。

意味がわからない

普段からもっと本を読んでおくべきだったと思っても後の祭り。

ポツポツと雨が降り出したが、よこぼうは諦めきれない様子で海面を眺めている。

「かえろうよ。雨だよ」

「いいよ。先に戻ってて」

「くらいし、もう見つかんないよ」

「もしかしたら、こっちに流れてくるかもしれないから先に帰ってていいよ」

「だったら、わたしが探してあげるよ」

コナは上着を脱ぎ捨て、薄暗い海の中に飛び込んだ。

春の海は一瞬ひやっとしたが、体はすぐ慣れたようだ。

勢いよく腕を大きく振り、クロールで沖に向かって泳ぎだした。

コナは学生時代の水泳教室を思い出したが、服が邪魔で思うように体は動かない。

それでも、モヤモヤが綺麗に流れていくようで気持ちよかった。

30m泳いだところで、くるっと体を翻し、

「ドローンどこで落ちたの?この辺じゃないの?」

ヨコボウの返事は聞こえない。

そろそろ寒くなってきたので、引き返し、堤防よじ登った頃にはすっかり真っ暗になっていた。

 

びちょびちょになったが、これも悪くない。

コナはすっきりした気分で、ヨコボウの元に戻ると、ドローンがなかったことや意外に寒くなかったことなどを伝えた。

「ドローンね、もう沈んでるとおもうよ。暗くてあんまりわかんなかったけどさ。ていうか寒くなかったよ」

それには答えず、ヨコボウは半泣きの表情でコナのビチョビチョに濡れた体を抱き寄せた。

「あれっ?こういうことでグッとくるんだ。意外に可愛いとこあるやん」

コナは、今がチャンスとばかりにヨコボウのほっぺにキスをした。

拒否される様子はないので、貴重な血肉とばかりにすかさず舌を絡め合う激しいキスをした。

初キスの味はなんだか潮の味だったが、それも悪くない。

そういえば、借りてきた車はカーセックス禁止だといっていたが、今日は濡れているので、多めに見てもらおう。

濡れやすい私はすでに色々とぐちょぐちょだしね。

コナは再度ミニスカートをたくし上げながら、淫猥な笑みを浮かべるのだった。

 

 

※この物語は9割ほどフィクションです。