立花さんが初めてサンライズに来たのは2018年の秋頃だったと思う。
サンライズに移籍してからは、ファンダイビングを何回か行ってから、2018年末ごろにDMコースを申し込んだ。
DMコースに入りたてのころの立花さんは、これまでこの人は何を習ってきたんだろう、と首を傾げてしまうほど、はっきり言えば下手くそだった。
それから丸3年。
通常のDMコースは1年間で取れなければそこで終了だけれども、立花さんはTTも申し込んでいたので、立花さんのペースに合わせてやってきた。
3年という長い時間をかけて、立花さんは自らと向き合い、自らの欠点を見つけていった。
その手触りを確認しながら、どうやって補ったらいいのかをひとつずつ学んでいった。
そして、ついにガイドテストに漕ぎ着けた。
場所は捨て瀬。
緊張のせいなのか、家康ポイントの地図を見せていた。
とくちゃんが聞く。
「ブイからこっちにいったら捨て瀬?いやこっちかな?」
「えっと、こっちですね」と立花さんは平然と答える。
自分の方に向けた魚の図鑑につばをつけてどんどんめくる。
ひとりごとのように話す。
そのたびに、ちゃんまりとはっちは笑いをこらえるのに必死だった。
しかし、言足りていないこともなかったし、言いすぎていることもなかった。
雰囲気は実直で素直。
バランスのとれたブリーフィングだったとおもう。
悪くない。
器材セッティングのデモンストレーション。
気配りができていたし、間違った説明もなかった。
ただ、ひとつ気になったことは、あれとかこれとか器材の名称を一部覚えていないところがあった。
プロであれば、細かいところまで気を使う方がいいだろう。
それにしても、以前の立花さんのように、集中力が切れて、しどろもどろするところはなかった。
屹立している姿はまさにプロだった。
ビギン、ウィズ、リビュー、アンド、フレンド。
ビギンのBはBCD、ウィズのWはウエイト・・・・
うろ覚え感はなく、器材の間違いも見つけ出していた。
ここまでは目立ったミスはない。
しかし、本番はここからだ。
ブイを設置する。
制限時間は10分以内。
僕達は立花さんが海へと歩いていってから、5分経ってエントリー口に歩きだした。
海を見ると、すでにブイは黄色いベルトで海底に固定されたあとだった。
およそ4分くらいでつけたのだろう。
ブイ付けは合格だ。
潜り初めてすぐ立花さんは砂を巻き上げていた。
これは減点だ。
オトシゴ岩につくやいなや、オトシゴを探すと言い出した。
これにははっちも驚いた。
制限時間は45分〜50分なので、時間的余裕があるとはいえ、いきなりサービスすることに僕も驚いた。
1分後、海藻の中から見つけ出した。
みんながオトシゴと遊んでいる様子を撮影する。
これも立花さんなりのサービスの一環だろう。
1本目の課題は捨て瀬へ行って帰ってくるルート。
東にまっすぐ泳げばまず迷わないルートだ。
当然、ブイから捨て瀬まで、一切迷うことはなかった。
けれど、名前が曖昧だった。
ギンコ??
テストでは、1ダイブにつき魚を三種類。生態も一緒に教えなければならない。
生態に関しては、メバルの斜め45度だけ教えてくれた。
ウミウシは1ダイブにつき、一種類教える。
ウミウシを見つけて、スレートに乗せて見せやすくするなどの、サービス精神は忘れていなかったが、こちらも名前が曖昧だった。
クロシナダとはどんなウミウシなんだろう。
クロコソデウミウシは「クロコソデ」。
きちんと「ウミウシ」まで書かなければだめだ。
そして、大事なスレートを落とすのも減点だ。3回くらい落としたかな。
泳いでいると、トラブルがひとつ起こる。
はっちのオクトパスが外れたトラブル。
これはすぐに見つけて迅速に対処していた。
捨て瀬からの帰りがけ、立花さんは岩場の方に泳いでいった。
はっちはその様子を見て、迷っていると思った。
絶対に受かってほしいと思っているはっちは「一回あがった方がいいんじゃない」と促した。
道に迷って、1回あがるのはOKだが、2回あがるのは一発不合格となるからだ。
立花さんの振り返り動作が緩慢になり、かわりに泳ぐペースが早くなる。
そんな様子でうろうろと岩場に向かったので、迷っていると思われても仕方がない。
しかし、僕は迷っていなかったと推察する。
立花さんが迷ったら、あんなもんじゃない。
コンパスを凝視し、砂を巻き上げながら激走していくからだ。
僕が思うに、こっちであっているのかなあと、おそるおそるルートを変えたのだと思う。
ダイビングは、こうやってみんなで成長していくから面白い。
1本目は44分で終了。
ほんとうは最低でも45分は潜らないといけないんだけど、1分は誤差とした。
浮上のちょっと前、僕はみんなから離れて堤防よりの砂地にいた。
すると、すぐそばにこぶし大の石がぽとんと落ちてきた。
最初は、誰かのポケットに入れていた石が落ちたのかと思った。
けれども、この日のダイバーはサンライズだけ。
おかしいと思い、あたりを見回すと、同じような石が砂地に5個くらい落ちている。
浮上すると、
「おまえら、ものとっとらせんか!!」と堤防の上から怒鳴ってきた人がいた。
目のおちくぼんだじいさんだ。
そんな頭のおかしいじいさんに向かって、「とってませんよ〜〜」とはっちが明るく答えた。
潜っているところに石を放り込むなど言語道断。
一目散にあがり、じいさんに一言言わなければならないと堤防に向かったが、もうそこに姿はなかった。
仕方がないので、なみぐちさんの息子さんに伝えて2本目に向かった。
のちのち、そのことがしろう(オーナー)に伝わり、怒り狂ったしろうは海上保安部に連絡して、目のおちくぼんだじいさんが所属する漁協に注意喚起してもらうよう要請した。
今後、石を投げてくることはないと思うけれど、また文句を言ってくる可能性はある。
そのときは、無視して問題はないので、目を合わせないようにしてください。
2本目。
先ほどの地図が家康だったことに気がついた。
間違いを素直に認めて、説明し直しているところは好感が持てた。
2本目は海水浴場側に泳いでいくルートだ。ダイブタイムはさっきと同じ。
2本目もかなりゆっくりとしたペースで泳いでいた。
振り返りもただ振り返っているだけでなく、ダイバーをひとりひとりときちんと確認していた。
しかし、生物は弱かった。
クツハゼはおそらくクツワハゼのことだろう。
でも、全体的にはよかった。
写真を撮ってもらえるよう教えたりして、みんなリラックスして楽しめていた。
時間は48分で終了。
迷って浮上することもなかったし、石を投げられることもなかった。
そして、最後の項目、ログ付け。
生物を教えるとき、図鑑につばをつけながらバラバラとめくる。
どこだったのかなあと探している間、みんな待ち惚けを喰らう。
さっと見つけなければ場がしらけてしまうと、とくちゃんが注意していた。
あと、やはり、みんなを楽しませるリーダーシップ的要素も必要だ。
最後は、全員でデブリーフィング。
各項目について、いいところと悪いところの意見をひとりずつ出し合った。
この中で僕がいいなと思った点をあげてみる。
ブイをつないでいたベルトが黄色だったこと。(迷ってもわかりやすいからね)
泳ぎが総じてゆっくりだったこと。
施設の説明、ダイビングのブリーフィングに漏れがほとんどなかっこと。
サービス精神が旺盛だったことだ。
そして、合格不合格は、みんなからの票をもらって、過半数を取れば合格という民主主義スタイル。
結果は、
合格3票。不合格1票。
で、見事合格した。
はっち、とくちゃん、ちゃんまりという気のおけない仲間がお客さん役だったこと、透明度がよかったこと、穏やかだったこと、いろいろと合格しやすい要素はあったにしろ、やはり立花さんの復習のたまものだと思う。
集中力もぜんぜん切れなかったし。
DMコースの難所であるガイドテストが受かったことは、僕にとっても、3年分の報いを得たような気がした。
残りは、デモンストレーションのテストと、器材交換を残すのみ。
DMコース、ラストスパート。
がんばってもらいたい。
RIO