福岡を離れると、見慣れているはずの福岡が違う街のように見えてくることがある。
歩いている人の服装、立て看板、ビルの造形、信号待ちする車。
そういった常識的な枠組みが僕が福岡を離れている間に取り払われてしまって、そのへんにあるものをかき集めて作った即席の街を見ているような感覚とでもいうのだろうか。
だからあたりを見回すと、
こんな建物はあったっけ?
こんなもの売ってたっけ?
と、目をこすりたくなってしまう。
これは昔からそうなのだが、離れた先で起こったことが濃密であればあるほど鮮明に起きてくる。
若い頃は、望むか望まないかは別にしてそれは定期的に起こっていた。
まるでサーファー が待ち望む台風の波のように僕を飲み込み洗濯機のようにかき混ぜていった。
痛みと混乱に耐えながらやっとこさ水面から顔を出すとそこにはいつも新鮮な景色が広がっていた。
しかしここ10年以上そんなふうに感じることはなくなっていた。
僕はこれから先、小さい波で大きく満足しなければならないのだろうと覚悟していた。
だが、知床は何十年ぶりかに僕の中の何かをかき混ぜてくれたし、完璧な形で光学的な光を残していった。
今でも目をつぶればそこには鈍く銀色に反射したねっとりとした水平線が広がっているし、山の方を見上げれば象の皮膚に雪が積もったような小高い山々が広がっている。
むしろ今、それがない事実に違和感を感じてしまう。
氷山のようにかたまっていた僕を数十年ぶりに違う場所へと運んでくれた知床に感謝している。
なので今回の知床のブログは全編、僕が書いていこうと思う。
まずは当然だが福岡空港に集まった。
今回の目的地の羅臼までは2430キロメートルもある。
のんびりと景色を見ながら行ってみたいものだが、忙しい現代人を乗せて車で行くわけにはいかない。
人が集まるところではコロナ対策というか、コロナエチケットとでもいうべきか、全員マスクを着用して乗り込んだ。
だが、僕は一人だけマスクを持っていなかった。
すると、ふじこが「毎日1枚配給します」と僕に新品のマスクを手渡してくれた。
健康管理担当はやはりふじこで決まりだと改めて思った。
2時間のフライトで着いた先は新千歳空港。
トランジットに2時間くらいあったので札幌まで出たかったのだが、JRは事故で止まっていたし、バス移動はまりちゃんNG(コロナ対策)ということで空港の中で暇をつぶすことにした。
カルビー(ポテトチップス)専門店があることには驚いた。
さすがはじゃがいもの聖地。
北海道にきたらまずは味噌ラーメン。
味噌ラーメン店を探しに空港を歩くとラーメン専門店街を見つけた。
その中で選んだのは「麺処 白樺山荘」というお店。
まゆこんぐとまりちゃんは塩ラーメン。僕は辛口味噌ラーメン。
塩ラーメンはいまいちだったし、辛口味噌ラーメンは坦々麺だった。
素直に味噌を頼めばよかったのに変な個性を出してしまったことに後悔した。
すでにビールを飲んでいるが、運転は大ちゃんが引き受けてくれたから問題はない。
運転担当はやはり大ちゃんだと改めて思った。
博多のラーメンと違って一杯の量が多いので少し運動することにした。
いきなり動くのもあれなので、数十年ぶりにプリクラを撮った。
撮影もお絵かきも時間制限があって難しい。
プリクラの基本設計はゲームなのを忘れていた。
パソコンを立ち上げてアドビで編集しているようなゆとりはないので、慣れるまでは最低5回は撮る必要があるだろう。
エアーホッケーをした後はパンチングマシン。
80キロで女性トップは店長。
まゆこんぐは39キロ。
ふじこは60キロ。
まりちゃんは29キロ。
大ちゃんは96キロ。
僕は168キロだった。
パンチングマシンは通常体重の2倍くらいの数字が出ると言われている。
もちろんゲームだし、パンチに慣れているとかいないとかはあるとは思うのだけれど体重の2倍は怪しい。
実はまゆこんぐの体重は思っている以上に軽いのだろうか。
ぶた担当は改めてまゆこんぐだと思った。
ブヒブヒ。
北海道といえばミルク。北海道は広くて牛を伸び伸びといっぱい飼えるから。
そうすれば牛だって惜しげもなく美味しいお乳を出してくれる。
これは科学的なのだろうか。
遊んでいると2時間は意外に早かった。
中標津空港まではプロペラ機で50分ほどで到着した。
こじんまりとしてはいたが、整備された小綺麗な空港だった。
だが、ターンテーブルに乗っている荷物は僕らのしかなかった。
現在、北海道はコロナを恐る人たちには寄り付きたくない場所だ。
そこから進んで片田舎であれば当然観光客は少なくなる。
しかし中標津ではコロナ患者は出ていない。
しかも街の施設はどこもかしこも閉鎖しまくっている。
僕らがコロナを保菌していたとしても緊密に接触するのはダイビングショップの人と民宿の人という限られた人たちだけだからどちらにも際立った影響はない。
この時期、ここにくることはある意味で正解に近いのかもしれない。
日がくれるのが早い中標津は日が落ちかかって空に月がかかっていた。
空港を一歩でると、車止めには一台のバンが止まっていた。
それはレンタカー屋の送迎の車だった。
外は寒そうに見えるが西日が当たるのでそこまで寒さを感じない。
3分ほどでレンタカー屋に着いた。
ただのレンタカー屋だったが清潔でおしゃれな場所に見えた。
路肩には雪がしっかり残っている。
まりちゃんは黒いレペット(パンプス)からブーツに履き替えた。
女ひとり旅のような雰囲気からちょっとだけ北海道に馴染んだ気がした。
こちらは変わる前の雰囲気。
絵になるアパレル担当は改めてまりちゃんだと思った。
ふじこはお土産を持ってサンライズにふらっとたち寄ったような雰囲気があった。
そこには吟味したくなる安心感に溢れていた。
ここから車で1時間ほど北東に走る。
まっすぐ走った道とまったいらな畑。どこまでも広くて、どこまでもひらかれていた。
空には輪郭を持った星たちが輝いていたし、それを邪魔するものもいなかった。
北海道の自然は誰の助けも必要としない美しさに満ちていた。
着いたら民宿のおばちゃんが待ってくれていた。
長旅を癒してくれるご馳走は主に北の海で取れたもので構成されていた。
カニ、ほっけ、カレイ、帆立の赤ちゃん、タラ、海藻などなどだ。
どれも美味しかったけど量が多かった。
残すのはもったいないので大ちゃんがぱくぱくと食べてくれた。
食べ終える頃には胃が膨らんで落ちそうになっていた。
大ちゃんは昔から残飯処理担当でもある。
オイルヒーターをつけっぱなしにしている部屋はあったかすぎて火照っていたし、食べすぎたので街までお散歩に行った。
橋の下には白くて大きな鳥がいた。
呼ぶとこちらへ近づいてきた。
それはどこからどう見ても白鳥だった。
こんな街の中の川に普通に白鳥がいることに驚いた。
この2羽の白鳥を白ちゃん夫妻と名付けた。
僕らはこの滞在中に白ちゃん夫妻がなぜここに居着いて、人間に近寄ってくるのかを知ることになる。
RIO