午前中にダイビングを2本終わらせ、午後からシャチとクジラを見る観光船に乗る予定であった。
(そのために朝6時に起きて、腹も減っていないのに朝ごはんを食べたのだ)
しかし、船は欠航。
海を見る限りでは欠航するほど波が立っている感じはなかった。
唐津の船なら100%出航する程度の波である。
ホームページに掲載されている写真を見てみると、この程度の波で欠航するような船ではない。
例の沈没事故の影響だろうか。
ネイチャーガイドふじこをはじめメンバー一同肩を落とした。
午後からやることがなくなってしまったので、予定を変更せざるをえなくなった。
明日の午後から観光船に乗れるように変更し、明日の午後に行う予定だった知床五湖のトレッキングを今日に前倒しにした。
羅臼からウトロに行くには知床半島を横断している「知床峠」を越えていく。
およそ28キロメートル。峠頂上部は標高650mというかなり本格的な峠である。
潜ってすぐに標高の高いところに行くので減圧症のリスクも考えたが、潜り終えてから3時間経っていれば大丈夫とのことだった。
車は少なく走りやすい。
道路も綺麗に舗装されている。
一部区間、道路に小さな段差がついていて、ブワ〜〜ンと音が出るようになっていた。
タイヤ音により、不愉快にさせてスピードを出させないようにするためだそうだ。
こんな田舎で事故を起こすと救援に時間がかかるからだろう。
朝顔はこの音は動物に車の存在を知らせる音だと言っていた。
動物思いの人の発想である。
峠の頂上に着いた。
晴れていれば、羅臼岳が望める最高の眺望。
Tシャツでちょうどいい気温。
僕たちはこの峠を2往復半(観光船に乗れたら1往復半でよかった)したのだが、
晴れ渡った景色が見れたのはこの一回きりだった。
後から考えるとこのあたりから「呪われた変更の旅」が本格化していたのである。
約1時間かけて知床五湖のある国立公園の駐車場へ到着。
ご覧の通り、みなさん準備万端。
アウトドアを満喫する格好に着替えているのである。
それもそのはず、知床五湖周辺を3時間トレッキングが待っているからだ。
一人250円を券売機で支払い、14時からのレクチャーを予約した。
ワクワクしながら、お土産屋さんで時間をつぶす。
様々な形の「熊よけの鈴」が売っていた。
クマがいっぱい出るんだろうねえと話していたが、今回はラムちゃんが立派な鈴を「二つ」持ってきていたのでこれ以上クマの鈴は必要なかった。
係員の誘導でレクチャー室に入る。
DVDを見させられる。
ヒグマの大きさ、ヒグマの重さ、ヒグマの生態、ヒグマの恐ろしさ、ヒグマに餌をやるな、ヒグマは可愛いことを丁寧に教えられた。
10分後、立ち入り認定証ゲットした。
すると、次の瞬間。
「先ほど帰ってきたお客様がクマを目撃されたので、これから係員がチェックに入ります。
安全を確認してからの再開になりますので、料金の250円はお返しいたします。」
と告げられた。
ガーーーーーーンである。
後頭部をハンマーで殴られたような衝撃があった。
レクチャー室を出ると、クマを目撃したアベックが意気揚々とクマの様子を係員に説明していた。
「大きいクマでこっちを振り返ることなく何かを食べてました!」
とても興奮した様子でなんだか楽しそうだった。
この人たちがあと10分遅れて帰ってきてくれていれば普通に入れたのだと思うと、文句の一つも言いたくなってくる。
この人たちは、湖をコンプリートできた上に、クマ報告をして、自分たちはいいことをした気分になれている。
こっちは減圧症のリスクを抱えながら、わざわざ山を越えてやってきたのに、ヒグマのレクチャーだけ聞いて終わり。
まじありえない。
どうせクマなんかそこらへんにいるんだから、1匹出たくらいで中止にせんでもいいんじゃないの!
と、朝顔は怒り顔でつぶやいていた。
ぶつぶつ。
遊歩道を歩けなかった可哀想なお客さんのために、電気柵で囲まれた桟橋が無料で用意されている。
一番奥まで行くと、五湖のうちの一湖だけが見ることができる。
草むらの中を探していたらエゾジカ(北海道はこのシカばっかり)を見つけた。
写真を撮ろうとすると、霧が深くなっていく。
ウトロ側に霧が発生するのはめずらしいらしい。
通常、地理的な関係で霧は羅臼側に発生する。
この日に限っては濃霧であった。
これが1個目の湖。
正直いうと、どこにでもある普通の「沼」に見えた。
ある意味でいい思い出になった。
時間が経ってみないとわからないけど。
この時ふと思ったのが、台風を引き寄せることで有名なはまちゃんが「霧」も引き寄せていたんではないかということだ。
ツアー中の悪天候をはまちゃんに押し付けるわけではないが、もしかしたら一理あったのかもしれないと、この時から思うようになっていた。
時間が余った。「知床自然センター」に行くことにした。
ここにはクマの剥製があった。
この時、僕の体には泥一つついていなかった。
汗だって一つもかいていなかった。
体力だってあり余っていた。
だけど、骨抜きにされてしまっていた。
この皮熊のように。
大自然が目の前にあるというのに、作られた建物の中で自然を体感しなければいけない事実。
こんなことならはじめから「羅臼岳」に登っておけばよかった、という後悔の念が押し寄せていた。
考えれば考えるほどに体の芯が硬くなって、足取りに軽やかさが失われていく。
ちなみに「岳」とつく山は「とてもけわしい山々」につけられるらしい。
登山ガールのラムちゃんが教えてくれた。
標高1661m。
こんな高い山、登れるわけなかった。
とりあえず、終始ラムちゃんが楽しそうだったのが唯一の救いだった。
いえーい。
説明書きを読んでばかりで頭が疲れてきたので、ウトロ漁港に突き出ているオロンコ岩に上がることにした。
キタキツネの親子がいってらっしゃいとお見送り。
登ったら気分も晴れるだろうという期待を込めて。
オロンコ岩の高さは60m。
階段がかなり急だった。
一気に登ったので、ザッキーが「クマのプーさん」になってしまった。
はちみつある?
ウトロ側を回る観光船が入ってきた。
例の沈没船コース。
こちらの観光船はメンバーに人気がなかったので却下。
防波堤はセグロカモメの糞だらけ。
にゃ〜にゃ〜にゃ〜うるさかった。
こんなやかましい鳥は福岡では生きていかれない。
頂上にはトリカブトが咲いていた。
濃縮すると殺人に使えて、葉っぱや茎を食べると下痢や嘔吐を引き起こす。
たいちゃん情報である。
感動の度合いは少なかったが、体を動かせたのでスッキリできた。
降りたらまたキタキツネ。
野良犬みたいにそこらへんにいるから面白い。
次は、道の駅ウトロに向かった。
ここは大したものが売ってなかったので、隣にある知床世界遺産センターで人工的大自然を味わうことにした。
オジロワシは重い。
シカの角を体感。
キ〜〜〜〜!!
生後1ヶ月のクマ。
重たくないです。
赤ちゃんだもの。
まだ日没までに時間があったので、「オシンコシンの滝」に行くことにした。
するとグーグルマップにオシンコシンの「滝の上」に案内された。
なんでやねん!!
坂をがーーーーーっと降りて、ぐるーーーーーーっとUターンして、ようやく到着。
日が落ちかけていたのと霧が多かったので気温は20度まで低下。
午前中、羅臼の海で汗をかいていたのが嘘のようだった。
たいちゃんが撮ったスローシャッター滝。
僕が撮った記念写真滝。
今回は、上から見た方が盛り上がったので、下から見る必要はなかったのかもしれない。
峠を超えて羅臼に入った。
辺りは暗く、気温が下がっていた。
鳥は泣き止み、羅臼の住人は声をひそめていた。
宿の周りを歩き回っているシカやキツネたちも、何かの音を出すことは控えているようだった。
僕は宿に戻り、押し入れからタオルケットを引っ張りだす。
布団の上に落ちていた虫たちは跡形もなく消えていた。
まるで、この世界から逃げ去っていったみたいに。
Vol.4に続く。
RIO