朝一番、サチコのもとに電話が入った。
ネイチャークルーズ欠航の知らせだった。
あの事故以来、知床界隈の観光船は神経質になっていることをサチコは知っていたので驚きは少なかった。
他の海洋ウオッチング系のクルーズ会社に問い合わせてみるものの、予想通り、どのクルーズ会社も出船を見合わせているとのことだった。
4社目に問い合わせた知床岬ヒグマウオッチングクルーズだけは、唯一、予約可能の返事をもらうことができた。
しかし、出航場所が相泊港であるため、帰りの飛行機の時間がギリギリになってしまうことと、海岸線にいるヒグマしか見れないことがネックだった。
それでもサチコは予約することにした。
これまで、知床の観光船に乗ったことがなかったので一度乗ってみたかったのだ。
8時30分にホテルをチェックアウトして、相泊港には9時前に到着した。
知床岬ヒグマウオッチングクルーズは、羅臼の人でも20%しか見ていない知床岬まで行って戻ってくるコースである。
この会社のホームページの船長一覧に、昨日の羅臼昆布漁師のおいちゃんが載っていた。
僕はそのおいちゃんのことを、らうちゃんと名づけることにした。
小さい縁だけど、あだ名くらいはつけてあげたい。
知床岬まで行くのに、こんなちっこい船外機船で大丈夫なのだろうかと心配になるが、
一人「11000円」も支払っているので、大丈夫だろうと思ってしまうのは大脳の欠陥である。
本当はドライスーツを着て乗るくらいでちょうどいいのだ。
日本人は何かと億秒なくせに、危機管理が甘いのである。
船に弱い二人はホテルのフロントに売っていた、液体船酔い薬を飲むことした。
酔わなかったのは、遠くを見ていたからだろうね、と後から話していた。
船酔いの薬の効果は未だ未知数だが、船酔いの薬はコンスタントに売れ続ける。
そうやってビッグファーマーは儲かり続けるのだ。
日本のためにも三半規管を鍛えてくれ。
サンライズチーム以外には、アジア系が二人、白人が一人しか乗っていなかったので、ほとんど貸切だった。
風は強かったが、岸沿いを走っていくため、船は揺れないらしい。
その代わり、沖を回遊するシャチやクジラを見る確率はゼロに近いとのこと。
出航してすぐ、
「オジロワシを見つけました」とフジコはささやくように言った。
「ほんとだ!オジロワシがいる!」とサチコは言った。
フジコはサチコにしか教えないスタイルなのだ。
それにしてもフジコは野生動物を見つけることに長けている。
フジコさんって、山の中に住んでいらっしゃるから野生動物を見つけるのが得意なんだわ!と思ったあなた。
フジコの在住は早良区である。
早良区にこんな鳥は飛んでいない。
仕事場もいたって普通の街中なのである。
純の番屋(北の国からのロケ地)、羅臼昆布が一番取れる番屋(羅臼昆布漁師のおいちゃんが働いている)を順に通りすぎていく。
「あっ!トドが水面に顔を出しています」とサチコにだけに聞こえるようにフジコウイスパーボイスでつぶやいた。
トドは頭を出していたが、もともと水面に長くいる気はなかったのだろう、あっという間に水中へと潜ってしまった。
その時、大ちゃんはクマらしき生き物をカメラに収めていた。
本当にクマだったのか半信半疑だった大ちゃんは、クマがいたことをみんなに黙っていた。
モニターで確認すると、間違いなくクマであることを確信したので、サチコだけにカメラを見せながら、「これクマです」と言った。
サチコは船長にクマがいたことを伝えると、船はUターンしてクマの元に戻った。
大ちゃんがすぐに言わなかったのは、サンライズの人たちが「揚げ足」体質だからかもしれない。
揚げ足体質代表は、不平不満で有名なまゆみと前田である。
番屋ゾーンを過ぎると、クマが増えてきた。
ふじこの双眼鏡(10万円越え)とラムの双眼鏡(3000円)をみんなで回し見しながら、
「あのクマゴロンしたよ〜!」
「ご飯食べてる❤️」
「可愛い〜😍」
「なでた〜い🐻」
と大盛り上がりだったけれど、実際のクマは豆粒。
(一個前の写真にもクマは写っているので、探してみてください)
外人たちはよくこんな小さなクマで盛り上がれるなあと思っていたと思うし、
船長からしたらこんな小さなクマで満足してくれるなんて、いい客だなあと思われていたことだろうと思う。
大ちゃんの300mmのレンズで撮ってこの大きさ。
双眼鏡で見たらクマの行動がはっきり見えるので、双眼鏡は必須アイテムである。
サンライズの人たちは、自分たちで生物を見つけて、自分たちで楽しむことができる能力に長けているから、どんな状況でも楽しめるのだ。
ここから先は人が立ち入らない大自然ゾーン。
雄滝女滝。
メガネ岩。
この辺りからみんな静かになった。
眠っていたのは、ラム、まゆみ、あやか。
昨晩、トランプが盛り上がりすぎて、睡眠時間が3時間だったから無理もない。
ラムのサングラスは寝ているかどうかを不明にしてくれる便利アイテムである。
まゆみは自分が寝ていることに気がつかないくらい、気絶していたらしい。
ついに知床岬まできた。
思えば遠くへ来たもんだ。
番屋があるところまでは人の気配を感じられたが、自然ゾーンに入ると絶対的動物エリアとなる。
遠くから見ていても、その無人感と荘厳さはひしひしと感じられる。
こんな場所は全国探しても見当たらない。
我々は自然の生き物だということを思い出すには、たまにはこういうところに行くべきであろう。
車の鍵を見失うトラブルがあったものの、ロスタイムは5分程度で済んだ。
ロスタイムをカバーするため、法定速度内でかっ飛ばしたおかげで、飛行機の時間には余裕で間にあった。
空港に行くまでの間、フジコがタンチョウを見つけた。
タンチョウは畑で虫をついばんでいた。
福岡の大型鳥類といえば、カラスとトンビくらいだから、びっくりしてしまう。
中標津空港に着くやいなや、ラムちゃんは自分で借りたレンタカーで知床へと舞い戻る。
ヒグマと闘うため、一人知床の山に登って行くためだ。
2個登ってみたが、ヒグマに会うことは一度なかったらしい。
おつかれさまでした。
さて、今回のブログはいかがだったでしょうか。
今回の知床は写真が多くないですよ!と店長から聞いていましたが、実際蓋を開けてみますと、まあまあ多くてびっくりしました。
しかも、似たような写真がいっぱいありましたので、写真を入れ替える作業に手間取ってしまいました。
僕が参加していない観光も何個かありましたので、店長に感想を聞きながら書き進めたせいで、遅くなってしまいました。
レオ社長に変わって謝ります。
すいませんぴょん。
(書き漏れているところがあるかもしれませんが、書いている人が素人だから仕方がないよなと、寛大な心でお許しください)
そもそも、こんなに長い時間をかけてブログを書く意味はご存知ですが?
ツアーに参加した人たちが、日常のくだらない種々雑多に巻き込まれて、知床のことなんてすっかり忘れちまったある日。
このブログを開くわけだ。何かに導かれるように。
そしたらね。
「ああ!!そういえば!!三年前の今頃、こんなとこで潜ってんだよな。トドの死体みたんだよな!」
あのツアーぜんぜん思い通りに行かんかったし、寒くて辛かったけど、なんか楽しかったよな。また行きたいよな。
と、「記憶の転換」をはかれるわけです。
過去の出来事は変えられないと思っていたら大間違いです。
いかようにも変えられまする。
嫌な体験が忘れ、楽しかった記憶をブログが強化してくれます。
そうやって、過去を面白く変えてしまえれば、未来も面白くなりんすよなあ。
というわけで、このくらいでよろしいでしょうか。
これで締めさせていただきますばってんくさ。
次回の知床は2月です。
ものすごい冷たいです。
マジで万全の状態で挑んでください。
万全でやってきても、知床は思い通りにはいきません。
万全できてもそれが最低ラインですよ。
よろしくお願いいたします。
RIO
砂漠ができたのは、ヨーロッパ人の祖先が植林をしなかったからである。
日本に砂漠がないのは。我々の祖先が植林を行ってきたからである。
我々日本人は山を見るだけで、祖先のありがたみを感じてきたのだ。
僕はロビーの扉を開け、歩き始めた。
道路は真っ暗闇だった。
でも、大丈夫。
我々現代日本人は今でも縄文人のDNAを10%も持っているのだから。