アオリイカの産卵はオスが精包を漏斗から発射し、メスの体に受け渡すところからはじまる。
精包はメス(体が小さい)の口の周りにある受精のための袋に貯えられる。
そのときはメスもオスも体を透明にしてしまう。そうすることで精巣や卵巣を見せつけるのだ。
つまりアオリイカ流のセックスアピールということになる。このへんは人間と似ている。一般的に歳をとると薄着は好まない。
卵が熟すころ、受精した卵塊をゼラチン膜で包み込んで藻に付着させる。
卵を産み終えたおとなのアオリイカたちは意図的にごはんを食べるのをやめる。
まもなくして餓死してしまう。
38億年前に生物が誕生して生物が死ぬことができるようになったのは12億年前。
26億年の間、生物は死ぬことができなかった。
死んでしまうと種がほろびてしまうからだ。
ぼろぼろの体をひきづりながらなんとか生き延びてきた。
増殖するには分裂しかなかった。ぼろぼろの体で種を増えすことは容易ではない。
そんな困った状況を打破したすぐれものがいた。
オスとメスの遺伝子を半分に切って組み合わせたのだ。
すると赤ちゃんができることがわかった。当たり前だけれども赤ちゃんは新鮮な肉体を持って生まれてくるのだ。
そうすれば自分たちは死ぬことができる。ぼろぼろの劣化した体を使って生きていく必要がなくなる。
素晴らしい発見だった。それが12億年前。
アオリイカたちはアオリイカ全部でひとつの生物とみなしている。自分という概念はない。
新しい子供が生まれたら死のスイッチを入れる。つまり餓死する。
死なんてぜんぜん怖くない。哺乳動物も鳥類も爬虫類も魚類も怖いと思っていない。怖いと思っているのは大脳主体生物の人間だけなのだ。
多細胞生物である人間が幸せに暮らせるコツはアオリイカをじっとみているとわかってくる。
それはつまり他人と自分とに区別がつかない人生。
人間がひとつの集合体であると認識できれば、オリンピックで誰が金を取ろうが、銀を取ろうが関係がない。
人間っていうのは弱っちくて大したことない生き物だと思っていたけれど、中にはすごいことができる個体もいるもんなんだなあ。
こりゃライオンたちには逆立ちしたって無理だなあと膝頭をポーンとうつ。
それでおしまい。劣等感も嫉妬もうらやましさもない。
でも大脳は体に一個しかないからどうしても他人と自分を区別してしまう。
大脳が作り出す幻想がそうさせてしまう。
だからお釈迦様やイエスキリストはほんとうに偉いと思う。
あの時代にそのことがはっきりとわかっていたんだから。
〜きゅう、はま、あすか、大、RIOガイド1本目〜
中央口から入る。
水温が高い。水面は31℃ある。
体がまったく冷えない。
泳ぐと汗が出る。
熱帯魚や高水温に強い魚は盛んに泳ぎ回る。
熱帯地方には住めないタイたちはどこかに消えた。
地元のダイバーたちがガンガゼの駆除をしているので、中央口にはもうほとんどいなかった。
だからガンガゼをつぶして魚の餌にするのも一苦労だ。
1本目の狙いは砂地のアンカーに住むカエルアンコウ。
大きなツバクロエイに遭遇。
どうやら夏になると増えるらしい。
そういえばこのダイブに、はまちゃんの姿がないことを思い出した。
みんながエントリーした後にレギを反対向きにセッティングしていたことが判明した。
それを元に戻したあと、さらに浅瀬でマスクを無くした。
先に入ったグループは水面で待つはめになったわけだが、予定時刻がズレるので仕方なく僕たちだけで先に潜ることにした。
繰り返しやらないと人間の大脳はすぐ忘れるもんなんだなあ。いつまでも覚えているなんて思ったら大間違いなのだ。
あまり潜っていないのに自信だけはそこそこあるDMの人たちにそのことを言っておきたかった。
なにを隠そう、アンカーへの道のりをすっかり忘れた僕は砂地をさまよいそのまま三本根に向かってしまった。
きんせんのせいで長崎にこれなかったんだから仕方がない。
〜きゅう、はま、大、とく、はっち、あすか、てんちょう、RIOガイド2本目〜
みんなでイカの産卵を見にいくことになった。
東口から入る。
その途中にいたウミウシ。
テントウウミウシに似ていた。
名前はアオモウミウシ。ミルという海藻についている。
すでに現地スタッフが見つけていたので場所を教えてもらった。
自分たちだけでタンクを持って来て潜っていたのでは、貴重な現地生物情報は手に入らない。
一個目の木に着いた。
ハタタテダイが僕たちの前をつーっと横切る。
イカの卵はあるものの数は少ない。
すでに孵化しているものもあった。
アオリイカの産卵場所としては人気薄のようだ。
平行に20m移動する。
ふたつ目の木が見えてくる。
そこにはアオリイカの姿があった。
さっきの木と密集具合は変わらないみたいだったけど、圧倒的にこっちの方が賑わっている。
アオリイカの卵は生みつけられた直後から水分を含んでみるみる大きくなっていく。
給水率の高い麩みたいなものだ。
数でいうと20匹以上いた。
大きいものは50センチ。
ダイバーの泡を小魚だと思ってちかづいてくる。
産卵中はお腹が空くのだろうか。
群れが警戒心をなくしているのがわかる。
木に集まってくる。
模様がくっきりとみえた。体にくっついた寄生虫まで見える。
イカの体をあらゆる角度から撮ってみる。
太陽に透ける。
内臓がみえる。
僕たちはイカではないけれど興奮する。
メスはその間、木の中に腕を差し込んで卵をうみつける。
みているだけで疲れてきたので移動することにした。
さようなら。
周りにはカンパチたちが泳いでいた。
イワシをとるために徒党を組んでいた。
サツマカサゴのお母さんがいた。その後ろを子供がくっついて海底を飛び跳ねるように移動していた。
中層を泳げない魚だって群れるものなのだ。
それにしても暑い。もっと深いところにいきたくなる。
サンゴの上で吊るされているはまちゃん。
それ以上降りたらサンゴ壊れちゃうからね。
海のたましいがちょうどいいところまでひっぱってくれているんだね。
すーいすい。
北口に帰ってくると水深5mのところにソフトコーラルが生えてきていた。
これだけ暑いんだから何が生えたって不思議ではない。
お花が大好きな純情あすかはおうちに持ってかえることを切実に希望していた。
さびた色をしたサツマカサゴがいた。
こんだけ暑いんだ。さびても文句はいえまい。
色調を変えるとガンダムのキャラに見えてくる。
不思議な魚。サツマカサゴ。
個体数が少なければダイバーからさぞかし重宝されたことであろう。
青空エキジット。
〜お昼ごはん〜
時間がおしたせいで1本目と2本目の休憩は20分しかなかった。
3本目の前に45分間でお昼ごはんを食べる。
やったね。
店長はたけしと遊ぶ時間をとるために急いで食べた。
店長はたけしを心から愛している。
たけしは誰しも愛している。愛はどこに向けられてもかまわない。
すべては無償のものなのだから。
よし。
飯も食ったしいくぜ。
店長ファンのために違うバージョンも撮ったのでのせておく。
どっちがいいとか悪いとかはない。せっかく撮った写真が無駄になるから載せただけだ。
海に戻る。
戻るまでがお昼休憩だ。
きゅうは、暑いとか、痛いとか、ひりひりするとか、かゆいとかそういった小言を一切言わない男だ。
それはほんとうにすごいなあと思う。僕もそうなりたい。
〜きゅう、はま、大、とく、はっち、あすか、てんちょう、RIOガイド3本目〜
今度は西口から入って1本目で行けなかったアンカーへと向かう。
3人寄れば文殊の知恵だっけな。
そんなことわざがあったけれどまさにその通りだった。
簡単にみつけることができた。
ムレハタタテダイが8匹で文殊の知恵をしぼっていた。
どうやったらこの鬱陶しいダイバーを蹴散らすことができるのか。
カエルアンコウはアンカーの裏側に張り付いていた。
ちょっとみただけでは、どこにいるのかわからなかった。
そのすぐ近くにはさっきみたやつとは明らかに違うツバクロエイがいた。
しっぽには強い毒がある。タンパク質を破壊する毒だ。
刺されると激痛が走る。
サイド部分なら触ってもいいけれど、驚いたエイが泳ぎ去るときに刺されることがあるかもしれない。
ダイバーの上をさっとかわしてくれたらいいんだけれど。
そのあと三本根に向かう
僕と大とあすかは二の段に向かったが、はっちととくちゃんは店長と共に三本根に残った。
深いところがまだちょっと早いと感じたからだ。
なぜだかわからないけれど、きゅうとはまもそこに残っていた。
3人だけで深い方へと移動する。
岩の隙間にミナミハコフグ幼魚がいた。
こちらはハコフグ幼魚。違いがわかるだろうか。
18mまでいくとアカオビハナダイいた。とても目立つ。
この日は大潮。ちょうど引き潮だった。
二の段からせっせとフィンを漕いで三本根に戻ってきた。
あすかはぜいぜいいっていた。さすがに僕も足が疲れた。
砂地では黒いナマコが精子を放出していた。
ちょっと欲求不満気味のはっちはその様子をつぶさに観察する。
お手伝いしてあげようかしら。そうすればもっとでるかもよ。ふふふ。
アワサンゴをみた。
花みたいだ。
今度周防大島でアワサンゴの群生を見てこようとおもう。
〜お着替え〜
3ダイブをすべて60分越えで潜ったので、休憩は短かったけれどすでに16時30分を回っていた。
辰ノ口のローカルルールでは16時までしか潜れない決まりだ。
別にいいんじゃないって、ブルーアース長崎の女性オーナーひらのあいこさんは言っていた。
〜長崎市街地、思案橋にて夜ご飯〜
リッチモンドホテル思案橋にチェックインしたので長崎の遊郭付近散策。
長崎のレトロ感。
ふらっと入った焼肉屋で食べた。
たむけんの店だったと思う。中華は食べない。
今回のツアーはあくまで日常がテーマ。
あまり現地感覚を出したくなかった。
だって長崎は僕らの庭みたいなものだからだ。
NO3に続く
RIO