この生き物は貝の仲間であり浮遊系だ。
クリオネは自力で泳ぐこともできるが、遊泳力が弱いので潮の流れに逆らうことができない。
潮の流れに乗ってふわふわと漂っているためいつどこに漂着するのかわからない。
必ず見れるとは限らないのが浮遊系である。
クリオネのエサは貝の仲間であるミジンウキマイマイだ。
2枚の尾翼を使ってパタパタと(まあまあ目立つと思うのだが)獲物に近づき頭から6本の触手を出して捕食する。
ミジンウキマイマイはクリオネとほぼ同じ大きさで2枚の尾翼をもっている。
クリオネが近づいてきたら逃げるはずだ。
ほとんど同じくらいの泳力だと思うのだが捕食できる確率は何%なのだろうか。
それにしてもミジンウキマイマイの口がどこにあって何を食べているのか気になるところではある。
流氷はロシアの川からやってくる淡水の氷のかたまりである。
潮の流れや風の動きによって漂いやってくる浮遊の造形物だ。
飛行機からみた北海道の景色はいかにも寒々しい。
だからといってそこに流氷が居着いているとは限らない。
われわれはその成り行きを心配してはいけない。
どれだけ十全に願おうともどれだけ手厚く歓迎しようともそれは叶わない。
そんなことに心を砕くだけが無駄だからだ。
10時。
なかよしこよしの千歳空港。
飛行機会社の平社員に「なんかしらないけど今日は風強いから飛行機飛ばないかもしれないよ。飛ばないときは札幌で遊んでね。」
とアナウンスで脅されたのでお昼ご飯が不味くなった。
まあ食べたけどね。
もしそうなったら空港で一晩飲み明かしてやれ!
ラム肉に喰らいつけ!
「飛行機飛ばなかったら電車に乗って知床までいってもいいですか?」とちゃんまり。
ちゃんまりは寒さが厳しいところに行けば行くほどテンションがあがる女性である。
以前、与論島に行った際、「あたたかいっていうのはいかにも凡庸で大衆的で非芸術的だわ」と心から思ったらしい。
千歳レベルの寒さでは満足できないのだ。
前前前世はアイヌ人なのかもしれない。
強風の中、中標津空港に到着した。
遅延で13時50分に降り立つ。
腹ごしらえのため空港から6km離れた「根室花まち中標津店」で寿司を食べることにした。
この寿司屋の入り口に入るとき、スノーブーツを履いていた人たちは歓喜し涙していた。
スノーブーツは雪の降り積もる場所以外では、ただただ重くて暑くるしくて足に汗をかくだけの不快的なシューズなのだ。
雪の冷徹な苦痛が快楽に変わる瞬間。
その場面に立ち会えた僕は少しだけ涙のもらい泣キッスしてしまうところだった。
冬の中標津は観光客が多かった。思った以上だ。
羅臼の宿がどこも満員だったこともうなずける。
30分待たされてようやくカウンターに9名並んで座ることができた。
名物はホタテをはじめとする北海道海鮮寿司だ。
ホタテ1かん600円。
人気のかじか汁は売り切れてしまい、サンライズチームの全員には行き渡らなかった。
カジカ類で一番美味しいのはギスカジカだ。
冷凍ハンバーグ寿司を頼んだは誰だ。
180円。
自由人のラムはここで合流した。
「空港からタクシーで三千円もかかりましたよ。でも別にいいです。無事合流できたから!」
この人はいつだって前向きだ。
たまには冬の網走監獄にでも入れてみたい。
そのときはサンライズオリジナルブラックTシャツをプレゼントしよう。
「まじすか!ありがとうございます!ふくおかに帰ったら着ますね!」
嫌味は受け取らないんぽ〜〜がラムの一環した生き方なのだ。
宿で荷物を下ろし、全員で向かったのはサーモン科学館。
幹線道路から離れると雪は5センチ以上降り積っている。
スタッドレスタイヤがぎゅぎゅと音を立てた。
タイヤの表面がアスファルトをとらえていない生まれて初めての感覚。
車を降りると氷点下マイナス2℃。
だが、それほど寒さを感じない。
むしろ福岡の方が寒い気がする。
雪は寒さを感じさせない不思議な力があるのだろう。
サーモンは朝ごはんの時に焼いて食べるか、トライアルのサーモン寿司を買ってビールと一緒に流し込むくらいしか思いつかない。
福岡にはサーモンの詳しいことを知っている人は少ないと思う。
入り口に置かれたテレビには知床ダイビング企画の方々が撮影した海の写真と動画が流れていた。
エンドロールで編集ニークラリキと書いてあった。
こんなところにもニークラさんの力が及んでいることに驚きを隠せない。
大水槽にはサーモン系多数とサメが入っていた。
口元が大きく切れ込んでいるサメ。
笑顔が素敵な恵比寿様みたいだから「エビスサメ」と呼ばれている希少なサメだ。
このサメを見に遥か遠くからやってくる人もいるらしいが、このサメはあたたかいところに住むサメなので、わざわざ中標津で見なくてもいいのだが一応見る。
エビスサメを知っている人は日本全国に何人いるのかわからないが、おそらく佐賀県の玄海町の人口くらいだろうと推測する。
そして、その住人の中にはたつぼうが間違いなく入っていると思う。
エサをあげられる水槽ゾーンに入る前に200円でペレットを買っておいた。
結構な量が入っていたから飼育員気分が味わえそうだ。
このゾーンでは大小さまざまな幻の淡水魚「イトウ」が飼われていた。
ペレットを投げ入れると水飛沫を立てながら捕食してくれる。
どんな生き物でも食べてくれると嬉しいのはなぜだろうか。
逆に捕食される側にまわることもできる。
人が食べられてるところを見ると嬉しいのはなぜだろうか。
手が小さい人はげんこつまで食べられてしまう。
「いいなあ」
うらやましいざっきーさん。
擬似捕食を体験した人には指ぱく証明券がもらえる。
歯が2本くらいあれば頑張ったなあって気にもなれるけど、チョウザメの口の中はペトペトしていてむしろ気持ちがいい。
こんなのもらうのは申し訳ない気がする。
チョウザメはほとんど攻撃力ゼロだということがわかった。
おなじく攻撃力ゼロのレオくんの2本の前歯が恋しくなった。
レオくんのお世話はまゆこんぐがお店に通いでやってきてくれる。
レオくんはまゆこんぐの肥大化した前歯を噛んだりしない。
まゆこんぐの顔面にひっついているほくろを噛みちぎるようなことはしない。
短いベロでぺろぺろぺろするだけの優しいうさぎであり、まゆこんぐと同じようにいつもと変わらぬ日常を過ごしている退屈なうさぎなのだ。
次回は2匹揃って知床に参加してもらいたい。
他にはふさぎんぽもいたし、おおかみうおもいたので、ダイビングポイントローソク岩のことを思い出してしまった。
早く潜りたいという気持ちにさせられるのは、これらの魚たちが近い将来目の前にあらわれてくれるかもしれないという期待があるからだ。
われわれダイバーが見れる魚たちはあくまで限定的だから困ったものだ。
5時近くになると外は一気に暗くなった。
展望台から見る景色は日本じゃないみたいだった。
それがどこかと聞かれたら困るけど。
閉館の時間が迫っていた。
当館の案内をつとめてくれたのは、知床ダイビング企画でライセンスを取得されたニシナさん。
ニークラさんに教えてもらったのでニークラさんがダイビングの師匠であると言っていた。
ここでもニークラさんの力が及んでいることに一同驚いてしまった。
サーモン科学館から知床ダイビング企画まで約四十キロメートル離れている。
ナビではおよそ40分と示されたが、道路に雪が積もっていたので到着するのに1時間ちかくかかってしまった。
すっかり暗くなって疲れ切っていた僕たちを関さんは笑顔であたたかく迎え入れてくれた。
たくさんハグをしてくれて、たくさんキスをしてくれたのは真っ赤な嘘だけど。
関さんの口から「明日は潜る予定にしている」と聞けて安心した。
宿の主人が晩ご飯の時間を絶対守ってくれと執拗に迫っていたことを思い出した。
とんぼ帰りで宿へと戻る。
宿はサーモン科学館から街の方へと走るのでさらに遠い。
関さんともっとゆっくり話したかったし、もっとゆっくりセイコーマートでお買い物したかった。
わたしたちしか宿泊客いないのになんで焦らすのかしらんとあやかちゃんは不思議に思っていたらしい。
宿泊したのは標津にある民宿漁師の◯。
向かいにある温泉施設が閉まるため風呂はトータル20分であがり夕飯時刻19時に間に合わせた。
この日の夕飯は比較的海鮮系だったが、日が進むにつれどんどんファミレス化していくことになる。
夕飯がファミレス化していくにつれて、ざっきーの体重も増加していくことになる。
vol.2に続く
RIO