知床の旅の終わりを告げる朝が始まった。
この日の朝はこの旅一番の冷え込みだった。
そのせいで窓が凍り付いて出発できなかった。
5時05分の日の出まで残り10分で展望台に行かなければならない。
霜は長年の汚れのようにこびりついていて簡単には落ちなかったが7割ほど落としたところで出発した。
展望台に着くとその2分後に明るくなってきた。
羅臼側は知床半島の東側なので太陽が水平線から登ってくる。
その穏やかな自然光は僕たちの体をそっと中立的に包んだ。
ここはマイナス3度に風が吹く。スェットパンツで来てしまったことに後悔した。
羅臼初日の出を拝むと、知床の総鎮守、羅臼神社に参拝に行くことにした。
街一番の神社の手水舎の水は凍っていた。
コンコン。
この羅臼神社はどこか呪術的な力があるように感じた。
御祭神を調べてみると、僕の好きな大国主神の他に
ラウスゴンゲン、ストクテンノウ、コトシロヌシノカミが祀られていた。
参拝を済ませ、
振り返るとそこには朝日に照らされた高遠な知床の山々が固唾を飲んで僕たちを見守っていた。
僕らはこのまま知床半島の突端方向へ車を走らせた。
するとそこには無数の流氷が押し寄せていた。
思わず車をとめて見入ってしまった。
そこから車で5分も走ると雲が多くなってきた。
ネイチャーガイドふじこは走っている車の中から、反対側の山の上の木にとまっていたオジロワシを見つけた。
後部座席からよくあんな木の上にいる鳥をよく見つけられるものだと感心した。
それをカメラに収める姿を見ていると池中玄太80キロを思いだした。
知らない方は是非調べてみてほしい。大ちゃんの体重はちょうど80キロになったことだし。
さらに北上すると雪が強く降り出してきた。
そこに今回僕の目的の一つだった納屋を見つけた。
僕が求める納屋というのは、もうほとんど使われていなくて燃やされたとしても誰も困らない納屋。
これは理想的だった。
流氷の上には数匹のオオワシをまたしてもふじこが見つけた。
流氷に乗ったら流されることがあるから乗ったらだめなのだよ、と大ちゃんが教えてくれた。
さらに北上すると雪はさらに激しさを増して流氷の量も格段に多くなってきた。
流氷を間近で見ようと、海側に降りようとするのだが雪が深くてなかなか降りる場所が見つからなかった。
さらに北上してようやく降りれそうなところを見つけた。
まりちゃんは初のしっかりとした流氷の前にして、中くらいの雷に打たれたように見入っていた。
小サイズの流氷なら抱っこしてお持ち帰りできそうだった。
流氷は舐めてもしょっぱくはない。
本当は乗ったらだめだけど陸に上がっている流氷に乗ってみた。
しっかりしていたので僕が乗ったくらいではびくともしなかった。
三人乗っても大丈夫。
わたしは一人という認識でいいですか?
ブヒブヒ。
そしてついに車でいける最北端まできてしまった。
もしここから先に行ってみたい方は「すべて自己責任」
それは帰るしかない。
ヒグマ高密度。
怖い怖い。
息止まりから少し戻るとセセキの滝がある。
セセキとはアイヌ語で温泉。
もちろん全然凍っていなかった。
気がつかなかったけど肩には雪印マークの雪があった。
それはよくみるとほとんどが損なわれることなく雪印だった。
南にくだっていくと徐々に流氷は姿を消していった。
僕らはよね丸に戻り最後の朝食を食べた。そしてチェックアウトの時間になった。
よね丸のお母さんは、ちょっと買い物に出かけていく子供達を見送るように僕らを見送った。
すぐに帰ってこないと心配してしまうかもしれない。来年はスケトウダラの産地でもあるここ羅臼に、博多の明太子でも買っていこうと思う。
お母さんはどんな感想を言うのだろうと興味が出てきた。
また来るねと言ったら、また来てねとお母さんは言った。
僕らは器材を詰め込んで福岡に送るために知床ダイビング企画へと向かった。
パッキングは皆慣れているので10分で終わった。
そのあと写真集を買いに2階の事務所に上がった。
すると玄関にはたつぼうが写真を撮りそうな歴代の撮影器材と写真が並んでいた。
関さんはスヌーピーのマスクをして僕らを待っていてくれた。
関さんが全て撮影監修した「いのちの海知床」を一人一冊買ったのでサインをもらった。
僕はアバチャンのイラストの書いてあるピンクのLサイズのTシャツを買ったので、背中にサインをもらった。
前田幸子ちゃんには「前田幸子ちゃんへ」と書いてくれた。
僕は、関さんの「よかったと思ったらまたおいで」の言葉が印象に残った。
これはよかったと思う人とそうでない人に2極化することを表しているように感じた。
旅行の一環で流氷が見たかっただけの人はもう2度と来ないのかもしれないし、生物にも知床にも興味を持った人はまた来るのかもしれない。
僕の正直な感想としては知床はサンライズに合っていた。
これは何が合っていて合っていないのかは説明できないのだけど、薄い透明のベールを1枚隔ててはいたが基本的な性質がサンライズと似ているような気がした。
今回お世話になった知床ダイビング企画の青のスケさんと黄色のカクさん。
本当にこのお二人がいなかったら僕らの力では歯が立ちませんでした。
本当に感謝しかない。次回からはもっとスムーズに潜れるように精進しておきます。
知床ダイビング企画に別れを告げると、シマフクロウが見れたワシの宿で会った北海道アマチュアカメラマンのおじさんに教えてもらった動物の楽園「野付半島」へと向かった。
近そうに見えるが車で60キロもある。60キロと言えば福岡から久留米を通り越して八女まで行く距離である。
さすが北海道。
知床ダイビング企画の前の道路を走っていると、突然ふじこが「あそこに背びれが見えます。シャチかクジラだと思います」と言った。
すぐに車をとめて探してみたがわからなかった。
そのまた5分後、「あそこにトドがいます」とふじこが言った。
僕は岩が出ているだけなんじゃないのと言ったがふじこはトドだと言って譲らなかったので降りてみた。
本当にトドだった。
トドは群れで水面に浮かんでいた。
野生のトドが国道沿いで見れるなんて信じられなかった。
僕らが立ち去るまでヒレでバイバイしてくれた。
バイバイ。
うとうとしているとそこは野付半島だった。
道沿いに野生のエゾジカを見つけた。
ネイチャーガイドふじこさえいれば寝ていても教えてくれる。
野付半島の先端にあるネイチャーセンターは新型コロナの影響で閉館していた。
一番先端まで行くにはネイチャーセンターの車でしか行けないようになっていたので歩いていくことにした。
野付崎灯台は映画に出てきてもおかしくない雰囲気があった。
さらに行くと野鳥の観察小屋があった。
ここから野鳥を狙う。
知らないカモメも色々いるようだ。
でもこの日は白ちゃんばかりだった。
よく肥えたヒグマは一頭いたんだけれど。
がお〜〜。
そういえば羅臼川の白ちゃん夫妻にお別れするのを忘れてしまった。
今度は、博多通りもんを1箱持っていくので待っててくれ。
ここは山も林もなくオホーツク海の風が国後島から当たってくる。
冷凍庫の中で大型扇風機の最大風力で当たっているような寒さだった。
H&Mのジーパンと無印良品のスリッポンで来てしまった僕は全身が冷え切ってしまった。
14時発の飛行機の時間までまゆこんぐの運転で中標津へと向かった。
途中、北海道のポニーどさんこがいた。
この馬もこの旅でぜひ見てみたかった動物だった。
草を食べながら微動だにしないゴールデンレトリバーのような足をしたどさんこは愛らしかった。
このあと、僕が選んだ中標津のレストランでパスタランチを食べたのだが、女子たちは北海道らしいものが食べたいだとか唐揚げ定食は嫌だとか色々とうるさかった。(特に声が大きいアメリカの子供)
「ナッカリーノ」という名のレストランは雰囲気も良くてパスタの量も多くて味も良かったのでそれ以上の文句は出なかったけれど、もう少しどさんこみたいにおっとりとしていてもいいのではないのか。ここは北海道だぞ、と鱈とオリーブの辛口トマトソースパスタを食べながら僕は思った。
レストランを出て車で5分で中標津空港に到着した。
空港の手続きに少し戸惑ったものの飛行機の遅れもなく羽田へと飛び立ち、僕らの初の知床の旅は終わった。
帰ってきたばかりの福岡空港でタクシーを待っているあいだ、2021年からのサンライズのツアーは、春の知床ツアー、夏の知床ツアー、秋の知床ツアー、冬の知床ツアーと年に4回やればいいのではないかと店長は言っていた。
僕はそこで一つの案を思いついた。
知床ツアーをそんな形で3年やったら今度は札幌周辺の海を同じように3年間、春夏秋冬で年4回潜る。
そうやって日本を下っていきながら、東北、関東、関西、中国、四国とやっていけば日本全国の海の四季を満遍なく潜ることができる。
そうすれば日本に隣接する海を体系的に学べるだけでなく海の知見も経験の幅もどんと広がる。
それはサンライズの新しいやり方の一つだと思った。
〜最後まで読んでくれた方へ〜
知床ツアー最後のブログはお茶漬け的に軽めに書いて終わろうと思います。
全部が多いと読む方も書く方も疲れちゃいますからね。
今回は長い時間をかけて書いていたので左手首に湿布を貼りながら書きました。
普通の人はこんなに長いブログを1日で書くというのはあんまりしないと思います。
そんなことを4日も続けてやれば、ある程度書くことに慣れている人でもそりゃ痛くもなりますよね。
でもそのくらい書きたくなるほど知床の旅はいいものでした。
僕なりに何度も何度も読み返して推敲して書き直しをしたのですがそれでも読みにくいところもあったと思います。
それなのに最後まで読んでくれた方、本当にありがとうございました。
明日からは通常営業のブログに戻ります。
そういえば、まゆの温泉での続きを最後に書こうと思ったのですが、結末はお酒を飲みながらお話ししたいと思います。
多少の希望があれば書いてもいいんですけど。まあ希望があればですけど。
RIO