ようやくだ。
待ちに待ったGWの目玉。
浮遊系を狙っていける日が来たのだ。
テンションがあがらないわけがない。
僕のささやかなるダイバー人生において、ひとつの終着点として掲げているのは、大型の浮遊系生物に会うことだからだ。
マンタみたいな大型生物よりも会うことが難しいとされる、大型浮遊系の代表格はやはりリュウグウノツカイだろう。
ぜひ、その大きさと美しさを生の目で体感してみたい。
そんなに見たいなら、休みの日を使ってプライベートでいけばいいじゃないかと思われるかもしれない。
しかしそう簡単にはいかない。
僕の人生はダイビングが大半を占めている。それゆえ、ダイビング以外のことが非常に重要になってくる。
ダイビングとダイビングじゃないことのウエイト配分を偏らせてしまうと、僕自身のバランスを崩してしまって、終着点としての存在意義を失ってしまう。
ダイビングはサンライズ。サンライズはダイビング。
D-PASSの自由活動範囲内で潜ることで僕の人生は美しい回転を始めるのだ。
くるくるくる。
D-PASSは僕にとってダイビング人生そのもの。
くるくるくる。
穏やかだし、天気もいいし、人も少ない。
しかし、浮遊系は一般的な海洋概況はあまり関係がない。
気になるところは、潮だけだ。
潮が入れば浮遊系はいる。間違いなく。
見たところ、澄んでいるように見える。
となりのダイバーも講習生らしき人ばかり。
今回は浮遊系特別企画ということで、まずはバディ同士で浮遊系のターゲット場所を探す。
僕のバディは勇将ザッキー。
ザッキーであれば、浮遊系を狙って、ぐんぐん泳いでも、きっちりついてきてくれる。
こなつみたいに、どっかに行ってしまうこともない。
洞窟側の浅瀬が狙い目。
まずは、ミズクラゲゲット。
10分後、全員が集合。
結論。
おらん!!!!
おったのは、ミズクラゲが2匹。
見てのとおり、まったく、潮が入ってきていない。澄み切っている。
最悪だ。
最悪。
もうこの時点で解散してもいいくらいの状況だ。
プライベートで来ていたら、間違いなく帰っていた。
いや、正確には「しずうらの内湾」に歩いていったことだろう。
しかし、そうはいってもダイビングという遊びは多くの場合、意外性が潜んでいる。
とりあえず、潜ることで何かしらの情報や知見を得ることができるものなのだ。
しかも、となりには、楽しみに来ている仲間たちもいる。
「どうくつやった〜〜!!!」
つばさは快哉を叫びながら、これからはじまるダイビングを楽しそうに待っていた。
つばさは昔、体験ダイビングで青海島に来たことがある。
そのときは、耳抜きがよくわからずに、嫌な思いをしたと言っていた。
それなのに、今ではDM候補生。すごいもんだ。
洞窟の中は洞窟の外に比べて、海藻のにごりを受けていなかったので、綺麗だった。
この洞窟は確かにいつ来ても綺麗なんだけれども、何度来ても、初回と同じだけの感動はない。
それが地形というものだ。
タワーマンションから見る「絶景の夜景」みたいなもんだ。
ここは、ぶらさがりアメフラシくらいしか見所がなかった。
水温高くてウミウシ少ないし、かといって魚も少ない。
透明度もイマイチ。
気持ちは常に浮遊系にふれているので、何かを探そうという気にもならない。
困りましたねえ。ばってんくさ。
普段なら絶対にしない「場所移動」を決行した。
トンビを警戒しながら、昼ごはんをぱぱっと食べて、全部の荷物を台車に積んで、合計4台、えっさほいさと台車を押すこと10分。
しずうらの内湾に器材をおろした。
汗だくだ。
ここでは、ごついカメラを持った人たちがこぞってエントリーしていた。
ここだ。浮遊系の本命は。
これはやったぞと思うのも無理はない。
鍵井さんはいなかったけど。
1本目と同じく、浮遊系の大まかな場所を特定するため、バディ同士で捜索した。
おら〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん!!!
こっちにおるのも、ミズクラゲだけ。
めちゃくちゃに潮が澄み切っている!
浮き木すらない。
OWATA
これ以上探しても時間の無駄。
あきらめる。
そして、浮遊系のいない深場に潜る。
生物の気配はこっちの方があった。
かわいいメバルたちもいっぱいいた。
ウミウシもそれなりにいた。
ヒメイバラウミウシ。
ミヤコウミウシ。10センチ。
デカシタナシ。13センチ。
投獄クロコソデ。
このままなんとな〜く、ダイビングが終わっていくのかなあと思っていたら、
堤防側の仕切り網にコウイカがいた。
30センチ近い体格。はじめはモンゴウイカだと思っていた。
全てのコウイカがペアになっていて、合計8匹もいた。
水深18mの内海で繰り広げられるイカデブーに見惚れてしまった。
生物の営みは地形と違って、いつみても面白いなあ。
こうして浮遊系は見事に不発で終わったけれど、まあ見応えはあったかな。
もう一回くらいは行きたいとことだけど。
そうだ。残念ごとといえば、もうひとつあった。
てるちゃんのお誕生日会だ。
てるちゃんの51歳の誕生日を祝うため、今回はログをつけずに福岡に直帰した。
20時。
お店に着き、てるちゃんがフルーツタルトケーキのかわいいローソクを吹き消した後、その事件は起こった。
店長がお誕生日プレゼントの包みを渡す。
「おめでとうてるちゃん。これお誕生日プレゼント。先に言っておくけど、それ絶対に傾けたりしないでね。そのビンは傾けるとすべてが台無しになるんだから。わたしも持って帰るとき苦労したんだよ。いい。丁重に扱ってよ。」と店長は強く念を押すように言った。
てるちゃんは、包みの中に指を差し込み、正体不明のビンを取り出した。
しかし、その持ち方は店長の警告とは反対に丁寧さが欠けていた。
てるちゃんが掴んだ部分は、「蓋とビンの間」だったのだ。
今となってはもう遅いが、まずは袋の中をのぞきこみ、持つ部分を決定させてから、指でグリップさせて持ち上げていれば、こんな悲劇は起こらなかったと思う。
持ち上げた瞬間、ビンはてるちゃんの指から滑り落ちた。
店長の悲鳴とともに、ビンは絨毯の上に転がり、湿った土を撒き散らしていた。
「だからあれだけいったのに!!ぐちゃぐちゃじゃん!!!てるちゃんのダイビング棚に飾ってもらおうと思って買ったのに。しかもこれ、メンテナンスもしなくていい優れものだったんだよ!最悪だ!!」
うなだれるてるちゃん。
てるちゃんのテラリウムには、かわいいヤギが2頭入っていましたが、災害にあったみたいに、汚れてしまっていました。
かなしい誕生日、サッドネスバースデー。
ここが最低地点なら、もうあがるだけだ。
びょーん。
RIO