今回の視察ツアーに、周防大島選んだ理由は、ただ単純に僕自身が瀬戸内海に興味があったからだ。
ご時世的に旅行に行きずらいとか、誰かの影響を受けたとか、そういった理由からではない。
瀬戸内海は福岡の海とおなじ温帯の海であるけれど、波がほとんど立たなないので、海藻の質や海藻に宿る生き物の質が、玄界灘とは大きく違わないにしても、部分的には違うと思ったからだ。(それは実際正しかった。)
それに瀬戸内海はにっぽんの歴史的見地からみても、重要な海域であるにもかかわらず、その生態系の多くを知るものは少ない。
現代の日本人の目は西洋的なものばかりに注がれているので、やれ青い目だ、やれカクテルだ、やれ白い砂浜だ、やれクルーザーだと、日本国土のことに関しては、恒常的無関心を示す傾向にある。
だから、ダイビングを趣味にしている人からしてみても、瀬戸内海?ああ内海のどろっとした汚い海でしょ。そんなとこ潜ってどうすんのよ?的な反応になるのは、いたしかたないことだ。
でも考えてみてほしい。
日本人のルーツをたどれば、超最先端の海洋民族である。
貝を採ったり、魚を採ったりしながら、何万年も暮らしてきた。
やがて稲作がはじまっても、日本人の体を作りつづけてきたタンパク質は魚や貝なのだ。
つまり、僕たちの体と精神は、同根的に日本の海とは切っても切り離せないといっても過言ではない。
僕はそんな日本の海をもっと知りたいと思った。
あとどれくらい海に潜れるかわからないけれど、ダイビングを仕事にしているのならば、それが終わるまでは知り尽くしてやろうと。
僕はあたかかい海に潜るたびにこう思う。
目の前には数多くの美しい色をした魚が横切り、あらゆる珊瑚が立ち並ぶ。
一見、それはパラダイスに見える。
でも、そこには「におい」というものが欠けている。
そう、海藻の匂いだ。
磯の匂いといってもいい。
無臭の海。
ハリボテの水槽に潜っているような気分だ。
光は横長の蛍光灯。
背景は透明度のいいときに撮られた均質的海洋風景。
水は適度にヒーターであたためられていて、いつも自動的に快適な温度に調整されている。
知らない国の民族舞踊を見たあとのような拍手が聞こえる。
残るのは疲労感とありきたりな記念写真だけだ。
心に食い込んでくるなにかが圧倒的に損なわれている。
だから僕はあたたかい海で潜ることはやめたのだ。
福岡から周防大島までは遠い。
車で4時間。もう少し先まで行けば広島県だ。
日帰りではめげる範囲である。
僕たちは軽い暴風雨の中、ここまでやってきた。
メンバーはふー、めぐ、たつぼう、RIO、前田、こなつ。
こなつは昼まで仕事だったので、新幹線でこっちまでくる予定になっていた。
駅に迎えにいくまでにはまだ時間があったので、周防大島で有名なカフェに立ち寄って、昼ごはんを食べた。
シーフードカレー。チーズカレー。海の幸カレー。ビール。チキンカレー。タイカレー。
いろんなカレーを食べた。
僕はカレイの煮込み定食とが食べたかったのだけれども、そういった定食屋を探すのはむずかしい。
日本の田舎にいくと、なぜかおしゃれなものが好まれるからだ。
田舎人からしたら、カレイの煮込みなんてものを外食するやつは、けったいなやつやなあ、という扱いになるのだろうか。
今回の宿はテラスハウス風ペンションを一棟借りした。
ダブルベッド2つとダブルの布団が1つで、6名の宿泊。
ベッド1は、前田とこな。
ベッド2は、たつぼうとめぐ。
ふーは床。
僕はソファー。
この宿泊方法は、全員がスタッフじゃないとむずかしい。
実際のツアーに行くときは普通のホテルを取るつもりであるので、心配しないでほしい。
おもしろさはこっちの方があるんだろうけど。
それほど広くはないけれど、雰囲気といい、設備といいテイラースイフトがばっちりに似合う家だった。
とりあえず、これだけロケーションがよければ、文句はない。
この島は広い。瀬戸内で三番目の大きさがある。
ガソリンが切れたら怖いので、とりあえずガソリンを入れておく。
さっき渡ってきた橋を再度渡る。
周防大島と本土を結ぶ橋だ。
(この橋を作るには相当な時間と労力がいっただろうなあ。)
橋のたもとには大畠駅がある。
こなつをまつ。
着いて5分もしないうちに、こなつがおりてきた。
「電車よ、もっと早く動いてください!!」と念じながらここまでやってきたらしい。
降りてきた乗客はこなつだけ。
駅の待合所にもノーゲスト。
せっかくなので、周防大島の調査ルートを考えることにした。
橋をわたる手前にある、道の駅みたいなところで黒鯛を買った。
瀬戸内海といえば、メバルも有名だけど、黒鯛も有名だ。
夕飯に刺身でいただくことにする。
680円。
六人もいて、黒鯛1匹だけではもの足りない。
食材を買い集めるのと同時に、島をめぐって周防大島のことを全体的に学んでいくことにした。
まずはサザンセトとうわにむかう。
ここは周防大島の中間地点にある、島で最も大きな買い物スポットだ。
僕は以前ここで、刀の傘を買ったことがある。
今回みたらなかったのであのとき買っておいて正解だった。
道の駅の裏側には瀬戸内海が広がる。
あれだけ激しかった雨。こなつがきたら雨雲が去っていった。
道の駅の裏には真宮島があった。
「しんぐうじま」
たまたま潮が引いていたので濡れずにわたれた。
石はごつごつ。生き物はタマビキガイのみ。
特に何もないのだけど、この島はパワースポットだとか。
水面が近くて、石投げにはもってこいの島だった。
前田投手いいフォームです。
ぽんぽんぽんぽん。
4ぽんぽん。
人編入賞をねらうたつぼう。
このくらいでは入賞はないよな。
別に変じゃないだろ。
島の反対側の海岸に行く。
そこには「ハワイ」が広がっていた。
実をいうと、この島は「瀬戸内のハワイ」と呼ばれている。
昔、たくさんの島人が仕事を求めてハワイに移住したそうな。
そういえば、真宮島のところにもハワイのオブジェがあったっけ。
こっちのビーチにはハンモックがそなえつけてあった。
それに、桟橋もあった。
夏に来たら日焼けし放題。
でも、海をみたらいかにも黒鯛がアベックで泳いでいそうだ。
そのすかしていない加減も、いい感じ。
このビーチはリゾートホテルが管理しているが、誰でも使ってよいことになっている。
フラダンスを踊れるステージがあるので、リコリアーノの本場のフラを見ながら、ハワイのカクテル、名前なんだっけな、飲んだら最高だと思う。
スーパーが20時30分で閉まるのでその前に買い出しにいった。
米。味噌。カレイ。ネギ。ハクサイ。土鍋。調味料。などなど。
元料理人のめぐに新鮮な瀬戸内の黒鯛をさばいてもらう。
アシスタントはこなつ。
鍋担当。
冗談抜きでめちゃめちゃうまかった。
カレー屋さんには申し訳ないけど、カレー1に対して、夕飯30の圧勝。
鍋はいい出汁が出ていたし、黒鯛は甘みがあって臭みゼロ。
最高だった。
風呂は一個。
タオルもある。
シャンプーもある。
洗濯機もある。
しましま。
23時就寝。
ソファーだと寒かったし、寝返りがうてなくて何度も起きた。
寝不足で次回に続く。
RIO