魚の履歴書 タカノハダイ

目を引く黄色と黒のカラーリングで浅瀬を探せば誰でも簡単に探すことができるイージーファインドで人気のタカノハダイを取り上げてみよう。

外見は地方専門の演歌歌手のような着物を纏っているのだが、ヒアルロン酸を入れて膨らみすぎた外タレのようなタラコ唇を持つアンバランスさが特徴である。

(若干ではあるが)アンモニア臭も生まれつき備えつけられている。

本人は仕方がないことだと諦めているようだ。

名前に魚の王様「タイ」と名は付くものの、実際はタイではないモノマネ歌手である。

外見に特徴はあるものの普通種であるため、お年寄り相手にイオンモールの中央広場で歌っているのが容易に想像できてしまうのがなんとも悲しい。

(タラコを普段から食べているからタラコ唇というわけではない)唇が分厚いということは隠れ美食家であるという証だ。

しかし、彼女はそんなに売れているわけでもない。

外見にも体臭にもいささか問題もある。

そんなモノマネ歌手が日頃から美味しいものを食べれているのは不思議に思うだろう。

 

実は彼女も以前は安定した収入を得ようと真っ当な仕事をしようと頑張っていたことがある。

よく働くのではあるが見かけによらずおっとりしている彼女は仕事中よくボーッと外を眺めていることが多かった。どこを見ているというものではない。ただ見ているだけだ。その態度が先輩からはふてぶてしいと勘違いされてしまい、しばしば同僚たちからつまはじきにされてしまうようになった。居心地が悪くなり転職を繰り返すようになってしまった。

思い切って彼女は一般職を諦め、見た目と名前を生かしモノマネ歌手へと転向した。見た目がミギマキ(タカノハダイによく似ている魚)に似ていると知人に言われたことをきっかけにネタを作った。少し練習しただけですぐにモノマネがうまくなったのは、もともとミギマキはタカノハダイの親戚だったからということもあるのだが。

最初は誰もが売れるわけがないと思っていた。しかし、人一倍人気のないミギマキの真似をするというもの珍しさから一部のマニアから人気を博しテレビにも呼ばれるようになって彼女の生活は一変した。

しかし、そんなミギマキのモノマネも移り変わりの激しい芸能界では一年も経たずに飽きらてしまい仕事のオファーは白紙へと変わってしまった。

他のネタも考えてみたのだが外見が邪魔してわかりづらいモノマネになってしまうし、漫談にも挑戦したのだがどうも頭がそんなによくないせいか面白いネタを思いつかない。

そこで彼女は仕事を得るため、地方営業専門の事務所のお偉いさん相手に枕営業で仕事を獲得することを決めたのだ。

深く物事を考えない性格に加え、細かいことは気にしない性格ではあったが最初の頃には罪悪感を感じたものだが、一度やってしまえば何度やろうと同じだ。

海藻の香りの強い石鹸で体を洗い、ヒレを扇子のように動かしスムーズに短時間で老齢の男性を射精へと導く術を習得したおかげで、今では仕事に困らなくなった。

これは毎度のことであるが、枕営業の後はすぐには自宅に帰らない。

街の片隅にある茶色とも黄土色ともつかない色のビルの影でタバコをふかして気持ちを安定させるのが常である。

そのビルの片隅には静かな空気で満ちており、誰も寄せ付けない時間が流れている。

彼女だけを癒してくれる空間へと足を踏み入れたものは誰であろうと黄色の線で隠された鋭い眼で威嚇する。

同じ仲間であろうとその空間に立ち入ることは許されない。

相手がウニを噛み砕く頑丈な歯を持ったイシダイであることがわかると、その場がから立ち去り二つ目にお気に入りのビルへと移ることにしているのだが、それは彼女の中で「例外」として諦めているようである。

 

RIO